「機動武闘伝Gガンダム」今川泰宏総監督、Gガンダムを語る! 最終回
演出には一種の挑戦心が必要だと思うんですよ。本当に挑戦するんだったら最終回のこの土壇場で賭けをやるんだ! それは監督に与えられた一種の特権かもしれないと思ってます。
−−−ドモンが海に捨てた脳波通信機。ハン老人が釣り上げてドモンに渡します。これ以降で重要なアイテムになるような気がしていたのですが? それと、無くなってしまった設定で脳波通信機による弊害とは何ですか?
これは49話の最後の告白するシーンで、ドモンが脳波通信機を使って「聞こえるかレイン!」ってやる予定だったんですよ。脳波通信機を被って告白をやりたかったんです。実は24話と同じことを逆の立場でやりたかったんです。ところがね、ひとつは尺がなくなった! 元コンテにはあるんです。実際には、やってたんです。最終的に残しておいたんだけど、あのフィルムのテンションでは合わなくなっちゃったんですよ。48話でドモンが1カット握りしめてるんですけど、あそこは英断しました。人に後から何と言われようが脳波通信機は忘れる。やめた! コンテチェックの順番の往復もあるんだけど、脳波通信機をどこに置いとくの? どこに持ってんの?ってことを含めて、最終話の準備が出来なかったんですよ。47、48話で用意してないから、もういい! 最後の最後のコンテ描いてるときに決めました。
脳波通信機っていうのは本当はゴッドガンダムで使う予定だったんですよ。つまり肉体のトレースシステムだけではなく、精神のトレースシステムというものをゴッドガンダムに組み込もうと。だからゴッドガンダムはシャイニングガンダムよりも強くなったんだよっていう表現をしようと思っていたんですよ。ただし、これプロット段階の話です。ドモンはゴッドガンダムで闘えば闘うほど、体が病んでいく。精神が疲れていく。あの感情エネルギーシステムの最たるもの、行き着くところがあの脳波通信機だったんですよ。ところがミカムラ博士は最後まで悪役で終わらせるつもりだったから。ミカムラ博士がシリーズ後半に何をやるかというと、ゴッドガンダムにそれを搭載してドモンで人体実験をしていたっていう設定なんですよ。ドモンはドンドンドンドン疲れていく。でも最後に命を懸けてレインを助けに行く。命を懸けてボロボロになったドモンがランタオ島に行き、マスターを倒し、レインを助けに行くっていうお話しに持って行きたかったの。やめた理由は二つあります。ひとつはゴッドガンダムって凄く悪いロボットに見えるねってことなんですよ。子供にオモチャを売るものとして、こりゃ良くないなと思ったの。このままやっちゃうとゴッドガンダムが悪いロボットに見えてしまう。これから始まる香港編のプランも含めて、子供が喜んで見てくれているっていう反応も含めて、そういう表現が出来なくなったんですよ。もうひとつは、ミカムラ博士を悪役で終わらせよう。最後まで本物の悪役だった。ところが、ミカムラ博士役の清川(元夢)さんって凄く感じのいいオジサンなんですよ(笑)。アフレコで会ったり、話してみたりするうちに、この人を悪役に出来なくなっちゃったんですよ。こういうことは初めてだな。役者さんとの普段のお付き合いの中で、ガラス一枚隔ててだけかも知れない、休憩室のロビーの中だけでかも知れない。その中で、段々、清川さんの雰囲気に影響されちゃって、47話の最後が出来ちゃったの。最後にカッシュ博士を解放して終わるっていうのは、清川さんのパワーなんですよ。清川さんに引っ張られちゃったの。私、最後のセリフ大好きなんですよ。これはコンテチェックの中でつけたセリフなんです。人は臭いと言うかも知れないけど「なあ…、カッシュよ…。君は今、眠りの中で私のことをどう思っている? バカな男と笑っているのか? それとも…」っていうセリフは、私の頭の中で清川さんが囁いてるんですよ(笑)。そうするとあのセリフがスーッと出てきたの。いかにも清川さんがいいそうなセリフを書いちゃったな。あのへんはアニメじゃないよなって感じなんですよ。言ってみればジジイとジジイの嫉妬話だから…。私、そういうの大好きなの(笑)。子供のアニメと言いつつね、子供たちにも感じてもらえると思うんですよ。全部理解して貰わなくても構わない。子供は理解しなくても、これは悲しいことなんだっていうことだけは感じて貰えるんじゃないかな。うまく言えないけど、僕が小さいとき「怪奇大作戦」や「ウルトラマン」「ウルトラセブン」を見たときね、今だからあの話はこうだから凄かったんだって言えるけど、あの当時からショッキングだったんですよ。じゃあ、子供の頃にそれを理論立てて言えたかっていうと、それは出来ない。それでも悲しい話は悲しく感じてたんですよ。理屈で言えなくてもいい、言葉で説明出来なくてもいいから、ああ、あの話は悲しい話だったんだなって感じてくれればいい。理屈や設定よりも感情が大事だっていう部分では、感じさせることが一番なんですよ。それで、ああいう流れ、セリフっていうのは子供向きとはいえあってもいいなと思ってます。大人の人はある程度見てりゃ分かるはずだしね。大人にも面白い、子供にも面白いっていうのは、こういう作り方もあるんじゃないかな?ってことですよね。
−−−ウルベとは名字だと思っていたのですが、何故「ウルベ少佐」と名前で呼ばれているのですか?(47話)
これはね、特に文芸の北嶋君がね…。北嶋君は私のGガンダムを非常に理解してくれていて、スタッフでありながら作品を好いてくれている人なんだけど、彼が唯一僕に反発したんですよ。ウルベは名前ではない、これは絶対に名字だと! 僕もウルベは名字だと思ってたんだけど(笑)、どうしてもあそこでフルネームを言わせたかった。ところが考えてなかったの。何か欲しいなと思ってたんだけど、たまたま、語呂が良かったんですよ(笑)。実はある晩、ビデオで「新スタートレック」見てたの。ちょうど、雑誌連載でオブライエン
*1を題材にした文章を書いてて、オブライエンの話を見返してたんですよ。そのオブライエンの奥さんの名前がケイコ・イシカワ
*2って言う名前なんですよ(笑)。そうか、そうか、こいつケイコ・イシカワって言う名前か…、って思ってて。次の日かな、ウルベ・イシカワにしよ〜〜って。つまり、名字か名前かどっちかが必要かなって思ったときにウルベ・イシカワで行こ〜って(笑)。名前にこだわってないってのはここなんですよ。あのとき、北嶋君がスタジオの中で「ゆるせーん!」って騒いだもんだからね、南(雅彦)プロデューサーなんかも「監督、正直に言いなさい。何が原点なの? あんたのことだから、どっかから取ってきたんだろ?」って言うから、別に考えるの面倒臭かったから、昨日「新スタートレック」見てて、好きなキャラクターの名前がイシカワって言うんでって話をしたら、やっぱり「ゆるせーん!」って(笑)。でも私、はまっちゃったんですよ。ただね、ちゃんと候補は出したんですよ。じゃ、どっちがいい? って聞いたときに、もう一つ出した名前が「笑福亭ウルベ」っていうの(爆笑)。どう、これ? これは日本の名前だよ! どっちがいい?って聞いたら「しょうがない。イシカワでいいですよ」って(笑)。
−−−どっちがいいて問題じゃないですよ! 誰だってイシカワっていいますよ…。
結構みなさん、真面目に見てるかも知れないけどね、バカなところは徹底してバカになって作ってます。例えばさあ、どこそこの学校に誰々あり!って言ったときに、よく名前で呼んだりするでしょ? ウルベっていうのは通称なの。それが非常に定着したから。本当はイシカワ少佐って呼ばないといけない名前なの。でも、凄く有名な人だからウルベ少佐って名前で呼んだの。ウルベ・イシカワ少佐だ! そう呼んでる間にウルベ少佐になったとかね。あとは、あの時代にイシカワっていう軍人がいっぱいいたの(笑)。特別優秀なウルベ・イシカワ少佐を独立して呼びたかったから、みんなイシカワ少佐だったら紛らわしいから彼を呼ぶときはウルベ少佐と名前で呼んでいたの! それが定着したの! 何故なの?って言われたら僕はそう真面目に答えています。
−−−私なんかは、ガンダムファイターと言えば国家的な英雄じゃないですか。だからみんながアイドル視するっていうか…。
それでも結構ですね! それ、ばっちですね!!(笑)
この「イヤです僕は!」っていう北嶋君事件はね、おかしくって、おかしくって! こいつ初めて俺に反抗したゾ!って。あのときはスッゲエ反抗だったもん!
−−−「自由の女神砲」って小説版のジャイアントロボにも出てくるという話ですが?(47話)
僕が書いたシナリオの第1稿にあったんですよ。第3巻のときにね、尺が無いからやめたんだけど、大怪球フォーグラーがアメリカ通過するときに国際警察機構が抵抗するシーンで使うのが「自由の女神砲」だったの。削除したんだけど、大好きだったんで、どっかで使わなくちゃと思って。アイデアって早く使わないと腐るもんだから。よし、使っちゃおうー! 自由の女神砲!!
最初はマッカーサーのそっくりさんじゃなくて、リンカーンのそっくりさんが乗ってたの! めちゃくちゃだったの。あとマンハッタン戦闘エリアね。あれコンテ読み違いられちゃったんだけど、本当はブルックリン橋とかいろんな橋がガァーって上がって分離するはずだったんだけどね。それはいいんだけどね。コンテ描いててね、マンハッタン戦闘エリアっていうのは自分で「これだよなぁ!」って。あのあたりは、異様な変なノリがあるんですよ(笑)。
−−−ネーデルガンダムがいくらやられても、ネオ香港で戦い続けていた理由は分かったんですよ。でもマーメイドガンダムのプロトタイプがこれだけあるならハンスは国に帰らなくてもよかったのでは?(48話)
いやいや。ネーデルガンダムは同じ型だから、スペアがいっぱいあるんですよ。用のないときはきっとチューリップを栽培してるんです。恐らく世界で唯一のチューリップ産出国なんですよ。それでね…(笑)。冗談はさておき、セリフでも言ってるんだけど、マーメイドガンダムはプロトタイプなんですよ。プロトタイプは正式参加は出来ないんです。エビも、カニも、タコもいますよね。エイも(笑)。あの国は水陸両用のガンダムを造るのに、どの魚のデザインが良いかを徹底して研究していたの。プロトタイプをいっぱいつくってたの。その中でやっぱりマグロが一番良いと(笑)。エビもタコも一つに関しては優れている。しかし、バランスとしては水陸両用にはマグロが一番と悟って、あの形になったんですよ。だから、そのときのプロトタイプがいっぱい残っていて、それを出撃させたんですよ。
−−−ネオエジプトも最初からスフィンクスガンダムを出していれば決勝大会に出れたのでは?(48話)
あれはね、秘密兵器なんですよ。自由の女神砲も含めて全部がそうなんだけど、マスターが言ってるとおり現実もそうだった。ガンダムファイトは凄く危険だったっていうのは、何だかんだ言ったってみんなコロニーに秘密兵器隠して一触即発の状態だと思っていた。風車小屋にカムフラージュしてネーデルガンダムいっぱい隠していたのと同じように、裏ではちゃんと、それぞれ武器を隠して持ってるわけ。そのひとつなんですよ。
あと、ひとつねマタドールガンダムなんだけど。あれが変型して牛の頭になって、後ろからやってきた牛のデッカイ胴体と合体して完全体になるっていうね。巨大な牛ガンダムが出来るっていうの(笑)。こういうシーンもあったんですよ。48話は尺が無くて、いっぱいいろんなシーンが、各国ガンダムが活躍するシーンが切ってあるの。私はネーデルガンダム40機編隊っていうのが大好きですね。もう一人の良き理解者、設定の河口(佳高)君がね、全身で震えながら「カッコイイ〜!」って(笑)。シナリオ書いたときから企んでたんだけど、シナリオにも入れなかったの。これは不意打ちでやる。ある日、お風呂の中で(笑)マーメイドガンダムの編隊と一緒に考えたのが、ネーデルガンダムの40機編隊。ずっと秘密にしておいてコンテ打ちのときに初めて言ったの。あのときの河口の嬉しそうな顔。みなさんにもあそこでネーデルガンダム40機編隊が出てきたときにカッコイイと思ってもらわなくちゃ困るんですよ(笑)。
キラルを出したのは唯一、連合を率いるだけのファイターっていうとやっぱりキラルでしょ。ドモンとの勝負でも本当に強かった。ドモンも本気で負けていたほどのキャラクターですよね。しかも、盲目であの強さだからね。
私のアニメには大集合するっていうジンクスがあるけど、またやっちゃったな。自分が子供のときに、カッコイイと思ったのがやっぱりこれですよ。ガンダムファイトっていうベースから考えてもあそこで大集合するのがベストだろうな。
最終回で僕が凄く喜んだ、これぞGガンダム!っていうシーンが、牛と魚に支えられる釣り鐘(笑)。昔話の世界かこれは! 日本昔話ガンダム(笑)。これが成り立つのがGガンダムですよ。
−−−最終話のラストカットの「SEE YOU AGAIN GUNDAMU FIGHT 14」の真意は?
また、お会いしましょう? シャレだよシャレ(笑)。
−−−あれ信じている人多いですよ。
まずいなあ〜?(笑) あれは演出上ね、これはオリンピックなんだと。オリンピックって終わるとき、4年後なんとか大会でお会いしましょうって言うじゃない。あれをやりたかったんですよ。つまり、続編を作るか作らないかじゃなくて、次への希望を持たせて終わりたかったの。ガンダムファイト自体を否定するんじゃなく、肯定して終わりたかったの。それと同時に、最後の最後で、カラトとカッシュ博士の会話で終われたのが良かったなと思ってるんですよ。締めくくるのが普通の人なんですよ。カラトが疑問を持つのも彼が普通の人だから。だから普通の答えなんですよね。「所詮我々人類は、闘わずにはいられぬ生き物…」っていうのはかっこつけて説教がましく言う訳じゃないけど、あの一言でガンダムファイトは肯定出来たかなって。お話の中で肯定されていた世界を、一度は否定するような方向に向けて、なおかつ、芯の部分で肯定出来た。未来へ向けてのエンディングに出来たと思うんですよ。あのセリフで決められましたね。とにかく、最終回はね、や〜るやるで。王様出る出る。ラブラブ出る出る(笑)。
実はね、南プロデューサーがラブラブをやめてくれって僕のところに怒鳴り込んできたの。「みっともない」って言うんですよ。あの「ラブラブ天驚拳」っていうのは最初、現場の中でシャレで出てきた言葉なんですよ。ある人がシャレで「ラブラブ天驚拳とかって言ったら爆笑だよね」って。ところが…、語呂がいいんですよ、結構。最後に「石破なんとか天驚拳」っていう風に今までを越えたかったんですよね。僕としてはGガンダムはガンダムを越えたガンダムですよね。何だかんだいろいろあったその最後に、Gガンダムさえ越えたい、もっとジャンプさせたい。そのためのセリフに「ラブラブ天驚拳」っていうのをやったんです。Gガンダムの世界を壊すわけじゃないんだけど、Gガンダムをさらにパワーアップさせたい。例えばラーメン食べたあとにスープすすって、ア〜っと思ったあとに、ドンブリの底に一本残ったラーメンを見たときにうれしさのような、そういった、終わったと思ったあとにそれを越えるもの。そういう印象を与えたかったんですよ。そのときに、ラブラブっていうのは語呂の良さで冗談から出た言葉だけど、凄く頭に残っていて。シャレのせいじゃなくて、確かにそれは今まで言って無かったセリフな訳。だからインパクトとして一番強く与えられるものなんですよ。今までGガンダムは漢字を組み合わせることでのインパクトを作ってきた。その漢字で組み合わさった「石破天驚拳」を語呂で越えるのは、言葉で越えるのは、イメージで越えるのは、インパクトで越えるのは! そこに英語をぶち込む!! この手法でラブラブという言葉はたしかに凄い。「ラブ」という単純で最強の単語を繰り返すことによって、リピートさせることによって、偶然にもそこに答えがあったんですよ。ところが、それを「みっともない」という理由で怒鳴り込んで来たんです。
僕も趣味だけで作るつもりはない。感性と理論が組合わさった真のセリフだから、非常に変えづらい。僕も勝手に、自分の我(が)だけで作るつもりはないからあなたにも「ラブラブ天驚拳」を越えるものを考えて欲しい。僕もこれを越えるものを考える、あなたもこれを越えるイメージを出して欲しい。「ラブラブ天驚拳」を越えるセリフがあるのなら、これを越えられるインパクトがあるのなら、僕はいとも簡単に「ラブラブ天驚拳」を降ろしますよと言ったんです。
南プロデューサーだけでなく逢坂(浩司)さんも嫌がった(笑)。逢坂さんもいろんな案を考えてくれたんですよ。でもね、最終的にマジに、本気で考えて「ラブラブ天驚拳」を自分でも越えられなかった。だから、これに帰結しちゃったんですよ。たしかに「ラブラブ天驚拳」というのが冗談から始まったことは確かなの。「最後に二人でラブラブ天驚拳なんて言ったら漫才夫婦だよな」なんて言ってたんだけど。でもね、それぐらい恥ずかしくていいと思ったんですよ。みっともないのと、恥ずかしいのは違うから。恥ずかしいのは演出的に裏返せば、嬉しいということだからね。
面白かったのが、役者さん達がとても良く反応してくれててね。アフレコのときに台本修正をやるんですよ。私自身いろんなことをやってみたい、体験してみたいっていうのがあって、最終話の台本修正をやらせてもらったんですよ。そのときに、このセリフに来たんですよ。最初は頭のセリフが「俺(私)のこの手が真っ赤に燃える! 幸せつかめと轟き叫ぶ!!」だったの。そのときまで気がつかなくて「二人のこの手が…」にすればいいんだ。それで、そこを直そうとしたの。カットナンバーいくつって言ったときに、そこのカットナンバーだから、みんなラブラブ直すんだと思ったらしくて。そのカットナンバー言ったとたんみんなが「え〜!」って。もめてた話も役者さん達に伝わってたから、いよいよ僕が本気で直すんだと思ったの。みんな結構、気に入ってくれてたらしくてね。台本修正のときにカットナンバー言ったら「え〜!」って言うんで「いや、違う違う。ラブラブは直さない直さない。二人のこの手が真っ赤に燃える! 幸せつかめと轟き叫ぶ!!」。
アフレコのときまで実はふたつぐらい考えていたんですよ。例えば「愛の花咲く天驚拳」とかね。やってみて、聞いてみておかしかったら、直しますよ。一方的に我をとおすつもりはないっていうのはそこなんで。やってみてダメだったら僕も直すつもりがあったし、でも、一回テストしたときに一番嫌がっていた南プロデューサーが「いいよ、もう。好きにやって。だって恥ずかしいよ。ここだけ恥ずかしいのかと思ってたら、全部恥ずかしいから、やっていいよ」(笑)って。
当時、スタジオで「ラブラブ論争」と呼ばれていたの。スタジオのみんなが二つに分かれてて。凄く愛を感じますっていう人と、みっともない、恥ずかしいからイヤだっていう人と。まぁ、正直言って、演出には一種の挑戦心が必要だと思うんですよ。本当に挑戦するんだったら最終回のこの土壇場で賭けをやるんだ! 決して作品をオモチャにするわけではないです。でも、僕は最後にそれは監督に与えられた一種の特権かもしれないと思ってます。Gガンダムは挑戦し続けて作ってきた作品だから、最後に最高に一番デカイ挑戦をしたいなっていうのが僕の意図だったんですよね。それをこのラブラブということばに賭けましょう。これは本当に放送したあとでボロクソに言われても俺は構わないという覚悟で挑戦してますね。それぐらい根性入れてます。ただしラブラブというのはふざけて入れたのでも、意地で入れたのでもない。あのラブラブのせいで二度と仕事が来なくても構わない。演出はそれぐらいの根性が、挑戦心がないと新しいことは出来ないと思ってます。昔、カツ丼を光らせたときもそうでした。賭けというのは失敗したときもデカイかもしれないけど、成功したときもデカイ。何も最後でやらなくてもいいじゃないか、これまで作り上げてきたものを壊すのかって言われるかもしれないけど、僕には勝算があった。「ミスター味っ子」もそうだったかもしれないし、例えばドモンとレインが初めて二人でシャイニング・フィンガー撃ったときもそうなんだけど、僕の演出の基本にあるのは「嬉し恥ずかしアニメ」なんですよ。腹の裏がかゆくなるような感覚ってあるじゃない。そういうのをやってしまうんです。それが僕の演出の露出したい一つの部分だと思うんですよ。あんなセリフを言ってしまえるだけの二人になっちゃったのよっていうことなんですよ。あそこでただの「石破天驚拳」だったら、それまでのドモンとレインと変わらないんですよ。なおかつ、あのままだったら40話のドモンとレインのほうがよっぽど凄く見える。「私、あなただけを見ていたから…」なんてバカなセリフを言っちゃったんだから。あれを越えるには二人に一線を越えてもらわなければならない。悪い方向に越えるんじゃない。一線を向こうに越えるんではなく、縦に越えるテンションが欲しいんだ。それをやってもらいたい。それがあの「ラブラブ天驚拳」なんです。たしかにギャグから出てきた言葉なんだけど、これに勝るもの無しっていう感じでしたね。
たしかにこれを理解するのは難しいと思うんですよ。これをやっぱり凄く嫌がっていた演出が一人いるの。彼にね、今の挑戦っていうことを話してみたの。そうすると、「監督がそこまで腹を決めているのならやるべきだ。今のを聞いたら俺は逆に見たくなった」って言ってくれた担当演出さんがいました。(谷口)悟朗なんだけどね。口で丸め込んだ訳じゃないけれど、演出家にはそういう挑戦心があるものなんですよ。何故なら、谷口悟朗という演出家もまた違う点で挑戦している男だから。でも、その挑戦をやめたら悟朗じゃなくなる。基本的に演出は挑戦心が無いとダメですよ。その挑戦心の表し方っていうのはみんなそれぞれ違うなっていうね。私の場合は最後に一発賭けた挑戦心がこれだったってことなんですよ。当初の挑戦っていうのもありましたよ。「東方不敗は王者の風よ!」っていうのも挑戦なんですよ。何を言ってるかは分からないだろうけど、あれは燃えるだろうと。みんなが理屈じゃないところで「おお!」って思える瞬間っていうのはあるんだと。そのときの手応えもあったし、「ラブラブ天驚拳」っていうのは成立するだろうと思ったんですよ。途中で少々不安にはなったけどね(笑)。とにかく、ドッカ〜ンって思って欲しいのよ(笑)。
ラブストーリーがやりたかったって言うのが、なかなか自分でも下手で出来なかった。恥ずかしげも無く…、セリフでも言わせちゃったけどね。白馬に乗った王子様。女の子はあれがいいんだ。バカにするわけじゃないですよ。でもこれって王道よね。バカにしながらも夢見る女の子っているでしょ? バカにしながらも白馬に乗った王子様が本当に来たら嬉しいでしょ? まぁ、とにかく恥ずかしい最終回でしたね。
あれはね、違う次元だから私物化しているとは思われたくないんだけど、あれは自分用にアニメでラブレターを作っているようなものだな。自分が使うためのラブレターなんだ。私をよく知っている人は「自分の願望を描くな」(笑)と言ってくれた人もいるんですよ。たしかに、それは言えてますね。あそこで言ってる「俺は闘うことしか出来ない…」っていうのは「俺は演出しか出来ない…」(笑)。演出じゃ言えるけどね、実際じゃ言えないよっていうのをフィルムでやっちゃったんですよ。あの「拳と拳で…」っていうセリフもそうだし。ファイターも演出も一緒なんですよ。こういう仕事やったら、ああいうことでしか自分を表現出来なくなっちゃうっていう部分って演出にもあると思うんですよ。最終話に関しては作品とは全く違うところで私物化してますね(笑)。
さて、最後にお話ししたいのですが、よく「Gガンダム2は?」「OVA版は?」などをご希望される皆様のお声を聞かせて戴きますが、はっきり言って私自身は続編はありえないと思っております。もしあったとしても私が監督すると言うことはありえないでしょう。そして、Gガンダムは様々な(演出的や私にとっての)悪条件や、純粋に子供向けの作品としてスタートし、それを最後まで意識し続けられた結果の作品だと思っております。ですから子供とオモチャの関係を切り離しがちなOVAはGガンダム自体の基本コンセプトを崩すことにもなりますし、私の頭の中でうごめく続編の構想はGガンダム自体をも飛び越える世にも恐ろしい?企画なので、またまた簡単には受け入れられないものかもしれません。この点に関してだけは私の演出カラーを否定することから始まったGガンダムとは全く逆に、個性の全面理解が絶対なのです。
そんな理由からも様々な意味で、最終回の〜第14回大会でお会いしましょう〜というメッセージはあくまでもこの作品を通しての希望の現れとして描かせて戴いたものです。
そして、あの幸せな二人の将来は、皆さんのそれぞれのものにしてもらいたいのです。
- 1 オブライエン
- USSエンタープライズD所属の技術部長で、転送機関係のスペシャリスト。「新スタートレック」ファーストシーズンではそれほどでもないのだが、セカンド、サードとシリーズを重ねるごとにメキメキと頭角を表す重要人物。その功績を認められ「新スタートレック」からスピン・オフした新シリーズ「ディープ・スペース・ナイン」へ転属。
- 2 ケイコ・イシカワ
- 熊本県出身でグチの多い植物学者。「新スタートレック」サードシーズンで描かれるオブライエンとの結婚式は必見! 24世紀でも日本人女性は、和服に“つのかくし”の伝統を守っていたのだ!!
'95年1月から5月までの間に行った5回に及ぶ合計12時間のインタビューを7回に構成、掲載しました。しかし、7万字を越えるインタビューのこれが全文ではありません。泣く泣く切ったおいしい話や、掲載できないここだけの話、等々。LDのインナージャケットにびっしり並んだ小さい文字を見て、ギョッとしたあなた! あなたはまだ甘い! アマイゾ、ドモン状態なのです!!
思えば、偶然に見たGガンダム第1話の衝撃は今でも忘れられません。
頬に傷持つマント姿の主人公。我がもの顔で街を破壊する敵ガンダム。名前を呼ぶと飛来するガンダム。バーチャルなコクピット。武器の名前を叫んで使う必殺技。そして、ベルチーノ警部の最後のセリフ「また嫌な、一年が始まりやがった…」。思わず腹を抱えて大爆笑!
元々、アニメに精通しているわけでもない私ですら抱いていた「ガンダム」というタイトルの持つ固定観念を、ものの見事に吹き飛ばす痛快なこの話。そして少年時代に影響を受けた、往年のロボットプロレスアニメを彷彿とさせる演出に、狂喜のあまり大笑いしたのは私だけではあるまい!
そして、衝(笑)撃的な12話。このシリーズのイメージを決定づけた我らがマスター・アジアの登場! (まず「東方不敗」と言う名前で、おもいっきり笑った)
描きたいことは49話分あるのだが、個人的なことを述べているスペースはないので割愛しますが、ひとつだけ…。
いい歳をしてアニメに夢中になってしまった私に舞い込んだこの仕事。結構しんどい事になりそうな予感も吹き飛ばし、二つ返事でOKしてしまった。何故なら、これ全て、こんなものを(失礼! 逆説的な意味でね)大真面目に作っている“今川泰宏”という人物に会って見たい、話を聞いて見たい!と言う動機から。思わず打ち合わせの席で自分から「今川監督へのインタビューを連載しよう!」と提案したがために、今私はここでワープロを打っているのです。
最後に、本編作業も大詰めの多忙な中を割いて頂いた今川監督に、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
インタビュー構成/鈴木和雅(Yellow)