「Down the World」をスーファミ最高の文学とするなら、「七ツ風の島物語」はサターン最高の動く絵本。監督は映画監督としても知られる雨宮慶太氏。その世界観、キャラクター、物語はゲーム本体を手放したいまもなお、印象的なサントラとともにあまりに鮮やかに蘇ります。なんて懐かしい世界、なんて懐かしい友だち。以下、ネタばれしまくってますんで、未プレイの方は要注意。
物語は主人公、下腹の出っ張った竜人「ヤニヤニ・ガープ(以下、ガープ)博士」が目覚めるところから始まります。彼はこの世界では生まれたばかりですが、なぜか「博士」。目覚めたところは七ツ風の島の上空で、彼は七ツ風の島に落ち、そこから冒険の旅がスタート。落ちる直前に黒い爪を拾いますが、「懐かしいにおい」と形容されます。まさかそれが、後々重要な意味を持ってこようとは、プレイヤーもガープも気づきません。そう、プレイヤーが七ツ風の島について何も知らないように、ガープもまったく未知の世界。以後、ガープの知識はプレイヤーの知識と等しくなる、というところは「Down the World」を彷彿とさせます。
七ツ風の島に降りたガープは、拾った木の種を植え(ここらへんうろおぼえなんで、間違ってたらご指摘いただけると助かります)、木はたちまち育って以後、ガープのうちになります。うちの中にはセーブするための椅子と、ガープの私的コレクションをしまい込むキャビネットと真っ白い本、七ツ風の島の住人や生き物たちの図鑑があります。このゲームの目的は「ある日、黒い風が吹いて、素敵な物語の失われてしまった七ツ風の島の物語をガープが取り戻すこと」なんですね〜。早速本を開いてみると、ガープの体験が記録されてますが、うちから出ることができません。木の家には扉の上に顔があり、その名前を答えられないと(だったかな)、うちから出られないんです。答えは図鑑に載ってます。名前、このゲームにおいて、もっとも重要なキーワードです。名前を答えられたところでこの章はおしまい。物語は次なる章へ。
外に出たガープは、虫の収集家、巨大な蜘蛛にして行商人のばあさんに会います(ゲームは横スクロールのアドベンチャーです)。それから青い姿に大きな目、両手のはさみが印象的な子どもに会います。その子の名前は「キスケ」、ガープが七ツ風の島で初めて出会った友だちです。さらに次の章で、ガープはコンドルペンギンのかんぞう(いじめっ子でわがままで俺様で、たきがはが2番目に好きなキャラクター)にいじめられていたピンクの「クリオン」と友だちになり、その次の章では黄色い子と友だちになるのですが、この子だけ名前が思い出せない…。3匹の友だちは、いつもガープと一緒にいて(ガープの移動が速すぎるとおいていくことがありますが。特に黄色い子)、キスケははさみで草を切り、クリオンは耳をプロペラにして飛ぶことができるのでガープを抱いて飛んでくれ、黄色い子はその大きな声で岩を砕いて道を開くことができます。ここまでの3章で、ガープのうちの近所に住んでる住人がかなり登場。思索してる大きな亀とか、何考えてるんだかわからない住人とか。
友だちとの出逢いは実は重要な伏線になってまして、ガープは3人に名前をつけてあげることができます。「キスケ」とか「クリオン」はデフォルト。で、3匹目の黄色い子は、気絶していたところをガープが名前を呼んで助けてあげるのですが、「名前のない者は忘れられる。忘れられた者はこの世にいない者」と、実は凄まじく重大なメッセージが隠されているのです。なんで忘れるかな、この子の名前。
で、3匹の友だちが揃ったところで、ガープは風ライオン(このゲームでいちばん格好いいキャラクターだ)と会い、島で3人目の風使いと認められます。2人目はかんぞうちゃん。で、赤い風、黄色い風、水色の風、黄緑の風、紫の風、白い風、オレンジの風を1つずつ手に入れたガープは、七ツ風の島での事件を解決するうちに、だんだんと「懐かしいにおい」の黒いものを拾い集め、そのアイテムによって見せられる過去を見るうちに、いつか、七ツ風の島に吹いた黒い風が、自分のせいだと知ることになるのでした。
物語はガープが生まれ変わる前、まだ巨大なドラゴンだった時に端を発します。独りぼっちのガープとリンゴアメ(たきがはがいちばん好きなキャラクター)は出逢い、ガープの大好きなものの名前(ゲームのしょっぱなで入力)をリンゴアメにつけてあげることで二人は友だちになります。二人で飛んだ空、やがて二人は、この世界の掟に則ってサナギになり、生まれ変わる支度をします。「生まれ変わっても友だちだよ」と言い合って。けれど、ある日強い風が吹き、ガープの棘だらけのサナギは傾いて、リンゴアメのサナギを割ってしまい、リンゴアメは目覚めて生まれ変わることができなくなってしまったのでした。いつかガープが生まれ変わってくることを待つリンゴアメ、その孤独な時間、「一緒にサナギになれなかったけれど君が生まれ変わるまでボクはここにいる」。ある日、ゲーム中にも登場するヒューが現れ、ガープのサナギが傾きすぎていて、このままでは生まれてこないだろうと忠告、リンゴアメはその細い身体の力を振り絞り、何倍もの大きさの卵を真っ直ぐになおしました。それでも生まれてこないガープ。孤独なリンゴアメは徐々に自分のことを忘れてしまい、ついに名前を聞かれても答えられなくなってしまいます。「名前のない者は忘れられる。忘れられた者はこの世にいない者」となってしまったリンゴアメは、黒い風になり、七ツ風の島の素敵な物語を消し去ってしまいました。
そして迎える最終章、七ツ風の島からガープ以外の全ての住人が姿を消し、島の右半分も消えて、そこには黒い塔が建っているのをガープは見ます。友だちを取り戻すべく黒い塔に挑むガープ、「この者は誰?」と吐き出される友だちの名前を呼ぶガープ、その中にはかんぞうの姿も混じっており、やがて最上階でガープは変わり果てた友だち、リンゴアメと再会しました。全てを思い出したガープは、リンゴアメにつけた、自分の大好きなものの名前を呼びます。ワスレラレタモノからリンゴアメに戻る友だち、けれどそれは、リンゴアメとの再度の別れでもありました。黒い風は七ツ島の風から去り、最後の最後にガープは大切な3人の友だちも取り戻します。七ツ風の島を襲った危機は、こうして去ったのでした。
ほのぼのとした展開から、ガープが徐々に記憶を取り戻し、全ての原因が自分にあったことを知った時、一緒に空を飛んだ大切な友だちが黒い風という忌まわしい存在に変わり果て、今度は自分の大切な友だち、ともに七ツ風の島に生きる者たちを消し去ろうとしていることを知る。誰もいなくなってしまった七ツ風の島の寂寥感と、黒い塔で一人ずつ放り出される住人たちの名前を呼ぶ時の緊張感(この時、「かんぞうちゃん出てこい」と思ってたらほんとに出てきて嬉しかったなぁ)、最後の最後にリンゴアメに戻った大切な友だちの「ガープ、大嫌い、ガープ、大好き」という言葉の切なさよ。
「友だち」とか「名前」を謳い文句にしてるゲームは数々あれど、ここまで話の本流にからめ、本質そのものと言える設定をしたゲームはたぶんない。終盤、黒の塔を登っていく時、たきがははガープになりきって、「思い出したよ、リンゴアメ、ぼくの大事な友だち、大好きな風(大好きなものは「風」としたのだった)、ぼくはなぜ君のことを忘れてしまったのだろう、ぼくはなぜいままで君のことを思い出せなかったのだろう」などと思いながらプレイしとりました。
ゲームの下敷きになった物語は、雨宮慶太氏が子どものころからずっと温めてきた世界だそうです。監督はサントラにこんな言葉を寄せています。「20年前、キスケやガープの事を想った少年(照れくさい言い回しだが)が、頭の中で考えていたオルゴールの曲である。しかし、当時、少年は、その曲を鳴らす事は出来なかった。このCDを、20年前の自分に聞かせてあげたら、どんなに喜ぶだろう」。懐かしいはずではありませんか。
記事を挙げる前に追記。七ッ風の島物語同盟を見つけたので参加させていただきましたが、上記の黄色い子は「ロクゾウ」でした。はぁー、良かった。