序 章
「−−−この患者は、元帝国民族生体科学研究所内フェール=リオネス研究室所属研究補助員で、マナス・ネグロイド系ケライア人の24歳の女性である」
「患者は、187年7月15日の爆発事故に巻き込まれたフェール=リオネス研究室の7名の研究員のうち、唯一の生存者であるが、爆発により顔面の損傷が甚だしく、鼻骨、頬骨より上顎骨、下顎骨までは失われているが耳の機能は完全に残している。ならびに四肢の機能もまったく失われた状態であり、かつ複製を使用する以外に、再生が不可能であると判断されたため、壊死せぬうちに、両腕は上腕部より、両脚は膝より下を切除した。よって、この患者が持つ正常な器官は、耳、消化器、鼻腔および口腔を除く呼吸器、および生殖器である」
「しかし、患者の意識や記憶および状況への認識は、多少興奮気味ではあるもののきわめてはっきりしており、かつ正常なものであると認められたが、これは声帯発声装置により当人とコンタクトがとれた結果、このように判断したものである。
よって、当生体機械研究所のかねてより要望の実験体の条件に合致することから、当患者を、複製技術を使用せずに、生体機械を埋め込み、その働きと人体との連結、とくに筋肉や神経との接合の具合を観察、実験する被験体、番号『T49740522』、個体名『クローディア』として登録することが許可された」
「これにより、患者の遺族にたいしては、他の六名の研究員同様に事故死として届出がなされ、これを了承。複製の遺体を送るとともに研究員に格上げをし、研究員事故死賠償制度に従って、賠償金が支払われる」
「以後、この患者は帝国最重要機密事項として処理し、その際、クリオ=ラサ博士を担当責任者として任命し、新たに研究室を開室する。今後、生体機械の移植手術ならびに生体反応板の埋め込みをも含め、当被験体に関するすべての事項は当研究室において行われるものとする。また同時に、ラサ博士の助手としてミンム=テシー研究補助員を任命する」
「それでは、これより、生体機械移植手術を行うための前処置として、両手足の残部分を付け根より切除する手術にとりかかる−−−」
(コ、コ、ハ、ド、コ…?
ド、ウ、シ、テ、コ、ン、ナ、ニ、ク、ラ、イ、ノ、ダ、ロ、ウ……)
「待ってください、どうして、患者をこのままにしておくのですか? 複製を使用するとか、手段はいくらでもありましょうに、このままでは、患者は−−−」
(カ、ン、ジ、ャ…?
ソ、レ、ハ、ワ、タ、シ、ノ、コ、ト、ナ、ノ……?)
「患者の意識はまだ戻っていない。それに、複製については、制止命令が出ているのだ、このまま回復を待つよりないじゃないか」
(イ、シ、キ、ハ、ア、ル、ワ……
ダ、ッ、テ、ワ、タ、シ、ハ、コ、ウ、シ、テ、カ、ン、ガ、エ、ル、コ、ト、ガ、デ、キ、ル、ノ、ダ、モ、ノ……
ド、ウ、シ、テ、ワ、カ、ラ、ナ、イ、ノ…?)
「複製を使用しないで、いったい彼女の体をどうやって回復させられるんですか? 早急に複製移植手術が行われるべきだと私は思いますが」
(く、ろ、ー、ん……?
ワ、タ、シ、ハ、ナ、ニ、ヲ、ナ、ク、シ、テ、シ、マ、ッ、タ、ノ……?
ソ、レ、ヨ、リ、モ、イ、ッ、タ、イ、ナ、ニ、ガ、オ、コ、ッ、タ、ノ……?)
「まあ、待ちたまえ。実は、近々、彼女はべつの病院に移されることになっているのだ。複製の制止と関連があるようなのだが、これも上からの命令でね、逆らうわけにはいかないんだよ」
(ビ、ョ、ウ、イ、ン……
コ、コ、ハ、ビ、ョ、ウ、イ、ン、ナ、ノ、ネ……)
「べつの病院…? そこでなら、もっと完璧な治療ができるということですか?」
(コ、コ、ハ、ド、コ、ノ、ビ、ョ、ウ、イ、ン、ナ、ノ、ダ、ロ、ウ……?)
「そうじゃないんだ。彼女に複製を使用しないのは、もっと別の理由があってのことで、どうやら、あまり大きな声では言えないのだが、あの生体機械研究所がらみらしいんだ」
(セ、イ、タ、イ、キ、カ、イ、ケ、ン、キ、ュ、ウ、ジ、ョ……?
ヨ、ク、ワ、カ、ラ、ナ、イ、ワ……
ヨ、ク、ワ、カ、ラ、ナ、イ……
ア、ア、ワ、タ、シ、ニ、ハ、ゼ、ン、ブ、キ、コ、エ、テ、イ、ル、ノ、ヨ、ヨ、ク、ワ、カ、ル、ヨ、ウ、ニ、セ、ツ、メ、イ、シ、テ、ク、レ、レ、バ、イ、イ、ノ、ニ……)
「まさか−−−」
(何モ、見エナイワ…
爆発デ、眼ヲ、怪我シタンダワ、キット……
ドウシテ、手ト、足ノ、感触ガ、ナイノダロウ…?
ナンノ、匂イモ、感ジナイ、ノハ、鼻モ、怪我ヲ、シテイル、セイナノネ……
私、ソンナニ、重傷ナノカシラ……
複製…?
早ク、早ク、私ノ、体ヲ、治シテクダサイ、ソウスレバ、何デモ、証言デキルワ、アノトキ、ドンナコトガ、起コッタノカ、ワタシニシカ、証言デキナイ、ジャナイノ…
ソレトモ、他ニ、生キ残ッタ、ヒトガ、イルノカシラ…?
ダトシタラ、私ノ、ヨウナ、怪我人ニハ、用ガ、ナイッテ、ワケネ……)
「では、四肢も回復の見込みはまったくないというわけですね?」
(四肢モ……?
回復ノ、見込ミハ、マッタク、ナイ……?)
「回復の見込みですって? カルテをご覧になっていないのですか? 回復どころか、彼女は顔面と両手足を吹き飛ばされたんですのよ、命が助かったのが不思議なくらい、耳が残ったのも、奇跡かもしれないですわね。まったく、どうしてあんなことが起こったのやら、私にはまったく見当がつきませんわ」
(ワカッテ、イルワ、私、全部、説明、デキマス、ダレガ、コンナ、コトヲ、シタノカ……
デモ、何モ、ナイ…?
眼モ、鼻モ、口モ、手足モ……?
耳、ダケガ、残ッタノ…?
ダカラ、話ガ、聞コエル、ノネ……)
「それは、そら、彼女が回復すれば、詳しい話を聞かせてもらえるでしょう。なにしろ、前代未聞の爆発事故だったそうですからねぇ。彼女の回復だけが事故究明の手がかりというもので」
(待ッテ、待ッテ、回復ノ、見込ミガ、ナイッテ、ドウイウコト…?
吹キ、飛バサレタ……?
私ノ、手足ガ、顔モ…?
ダレノ、ダレノ、セイデ…?
ろぅんヨ、ろぅんガ、ヤッタノヨ……!
アア、口ガ、キケタラ、ヨカッタ、ノニ……)
「回復ですって? あなたがたの噂はよく存じあげてましてよ。生体機械、早い話が、人間の体に機械を埋め込んだり、付け足したりするんでしょう?」
(思イ、出シタワ、生体、機械……
複製ニ、代ワル、新シイ、治療ノ、方法ダッテ、聞イタワ…)
「それを回復とお呼びにならない? たとえ機械とはいえ、人間が持っている本来の機能より、ずっと優れた体が手に入るのに、こちらでは回復とは呼ばないのですか?」
(ズット、優レタ、機能…?
ソレハ、ソウデショウ、トモ、機械ナラ、ズット、頑丈ニ、デキル、ノデショウ?
デモ、ソレガ、必要、ナノハ、私、ミタイナ、学究ノ徒ニデハ、ナクテ、軍人サンニ、デハナイノ……?)
「残念ながら、私は、機械を信用しないことにしておりますの。機械に使われるようでは、人間の本来の機能は失われてゆくと思いますので」
(機械…?
私ニ、機械ヲ、付ケルノ……
嫌ヨ、ソンナノハ、嫌、私、ろぼっとミタイニ、ナッテシマウノ?
ネェ、オ願イデス、ドウカ、私ニ、複製ヲ、使ッテ、ろぼっと、ミタイニ、ナルノハ、嫌、ソレ、ダケハ、嫌ナノ……)
「なかなか大胆な意見ですが、これは上の決定ですので、私もまた、使われるだけの部品にすぎません。今日は患者を引き取りにきた、しがない輸送人というわけですな」
(上ノ、決定…?
ソンナ、言葉デ、片ヅケテ、シマワナイデ……
私ノ、身体ナノヨ、私ノ……)
「……しょうがないですね。お互いに、それが私たちの仕事、というわけね……さあ、どうぞ。これが彼女のカルテ、それに書類をお返ししますわ」
(ヤメテ、渡シテ、シマワナイデ、かるてモ、書類モ、ソレガ、渡サレタラ、私ハ、二度ト、人間ニハ、ナレナイ、ノデハナイノ?)
「ありがとう。それでは、失礼します−−−」
(どうして……?
どうして、私だけ、機械を埋め込まれなきゃならないの…?
ねぇ、話も聞いてくれないのね、私の意志は無視してしまうのね、それが帝国市民の名誉……?
礎となることが…?
いやだわ、これは民族生体科学研究所に入ったときに聞かされたことよ、でも、だれも教えてくれなかったじゃない…
あんなことになるなんて、だれも教えてくれなかったじゃないの…!
私だって、想像もできなかったけれど、まさか自分のところにって、ずっと思ってたのよ、まさか、まさかって、そう信じてたのよ…
ねぇ、お父さんとお母さんに会わせてよ、その権利もないの?
でも、お母さんは、きっと泣くわ、お父さんだって…とっても悲しく思うに決まってる…
私、丸太ん棒みたいに見えるんでしょうね…?
顔がないなんて、手足もないんですもの……
ほら、わかるわ、なんにもないのが、よくわかる……
会わないほうがいいのね、きっと……
機械を埋め込めば、たとえロボットみたいでもすこしはましに見えるのかしら……?)
「クローディア、気分はいかがですか?」
(最低よ。いいわけがないじゃない、自分が手も足も、まともな顔もないとわかったら、あなただって、きっと嫌な気持ちになるに決まってるわ…!)
「クローディア、あなたには発声装置がつけられたのですよ。さあ、喋ってみてください、あなたにはまだ声帯が残っている。それにこの機械はなかなか優秀な出来なのですからね」
(馬鹿なこと言わないで。さっそく、私にロボットの真似をしろって言うのね。見えるんでしょう、私の顔が? 眼も、口も、鼻もないのよ…! いったい、喉になにをつけたの? 重い、なんだか、すごく重いわ)
「あなただって、まさかこのままでいたいわけではないのでしょう? だったら、わたしたちに協力をしてください。あなたが考えている以上に悪い結果にはならないと思いますがね、クローディア」
(クローディア……? そうだわ、それが私の名前…あなた、名前を呼んでくれていたのね、私、まだ名前を持っていてもいいのね…? あなた、悪い人じゃないみたいだわ、私の勘なんていいかげんなものだけれど、きっと、あなたはいい人なのね……そう信じてしまってもいいのね……? そう、信じるわ……)
「いかがです、クローディア?」
「わ、た、し、を、ロ、ボ、ッ、ト、み、た、い、に、す、る、こ、と、が、わ、る、い、け、っ、か、で、は、な、い、と、い、う、の、で、す、か…?」
「なかなかお上手ですね。初めての使用でそれだけ使えれば、上出来ですよ。すぐに慣れます。この機械は、帝国でも何百人という人びとが使用している優秀なものなのですから、なんら問題はありません。副作用の心配もまったくありませんし。目下の課題は、使用者個人にあわせた、機械のパーソナライズ化なのですが、それも使用者が増えていくことで対応できるようになるでしょう。
ところで、あなたの疑問はもっともですが、当研究所の技術は巷で言われているほど遅れているわけではなく、むしろ、もっと進んでいるのですよ。いや、ロボットだって、最近は人間と見間違えるほどのものがありますし。
それに、生体機械には、拒絶反応がないことが証明されておりまして、なまじ複製を使うよりもずっと安全というわけです。しかし、あなたが誤解されていたように、生体機械の使用にあたって、いちばん恐いのは、周囲の誤った認識というわけですね」
「ほ、ん、と、う、に…?」
「わたしたちを信じてください。これからは、あなたと我々とはともに協力しあっていかねばならないのです。
今回の件に関しましては、いろいろと複雑な事情がありましてね、まだご理解いただけないかもしれませんが、おいおい説明をしていきましょう。いまは、我々が互いに必要としあっているとでも理解しておいていただければけっこうですから」
「ど、う、し、て、わ、た、し、に、ク、ロ、ー、ン、を、つ、か、っ、て、も、ら、え、な、い、の、で、す?」
「率直に申し上げますと、あなたの場合は必要な部分が多すぎました。手足は言うに及ばず、顔面、これがいちばん厄介なのですな、頭はとてもデリケートな部分ですからね。つまり、あなた自身をまるまるもう一人複製しなければならなかったのです。これは、現在の技術ではまだ難しいことです−−−主に人道的な面においてでしょうがね。
それと、もうひとつには−−−実はこちらのほうが重要なのですが、我々の研究所では、常々あなたのような患者を要望していたのですよ。我々の生体機械の研究と実験にはどうしてもあなたのような方が欠かせないのです。それも、奴隷などではなく、ぜひ帝国市民でなければならなかったわけでして」
「そ、れ、も、マ、ナ、ス、じ、ん、で、あ、れ、ば、な、お、よ、か、っ、た、と、い、う、わ、け、で、す、ね?」
「そういうことです。あなたも御存知のように、帝国におけるすべての科学研究所において、その研究員はすべて帝国の発展のために身体を捧げるのが決まりです。あなたの場合はたいへん極端な例ではありますが、やはり、我が銀河帝国発展のための礎となるわけですな。つまり、研究員となったら、その生死は帝国に委ねられるのが常ということでして」
「し、っ、て、い、ま、す……わ、た、し、こ、れ、か、ら、ど、う、な、る、の、で、す、か…?」
「生体機械の移植手術を行います。ちなみに、あなたは2ヶ月も眠っていました、いや、本当に眠っていたかどうかはわかりませんが、このカルテではそういうことになっているのです。そのうち最初の7日ばかりは集中治療室にいらっしゃった。
つまり、今日は9月17日でして、事故からは二膜獅煬oってしまったわけです。この後は、手術には7日ほどを見込んでいます。さらに、リハビリが1ヶ月ですか。もっとも、これはあなた次第で、もう少し短くも長くもなるでしょうけどね」
「わ、た、し、い、ま、す、ぐ、に、で、も、し、ょ、う、げ、ん、だ、い、に、た、ち、た、い、ん、で、す、そ、れ、と、も、ロ、ゥ、ン、は、も、う、つ、か、ま、っ、た、の、で、す、か?」
「しょうげんだい? ああ、その必要はありませんよ。事故の内容や原因、被害などは公にされないことになったそうです。これも我が研究所といささか関係があるんですが。でも、そのうちにクゥィニックが来るということでしたが。
それと、ロゥンというのは、例のリオネス実験体のことですか? まだ、捕まったという話は聞いていませんね。目下、帝国人民7名の殺害、および、実験体逃亡などの罪により、帝国全土に極秘指名手配中だと聞きましたが、なにしろ相手があの爆発を起こしたリオネス人ですからねぇ」
「し、ち、に、ん、も、こ、ろ、さ、れ、た、の、で、す、か?」
「いいえ、正確には6人、フェール=リオネス研究室の方だけです。7人目はあなたなのですよ、クローディア。
つまりですね、今回、あなたが生体機械の移植手術を受けるということは、重要機密にあたると判断がなされまして、あなたには生体反応板の埋め込みも予定されているのです。そのために、戸籍上は死んでいただかないとならないわけでして。複雑な事情があると申し上げたのは、ひとつにはこのことなのです」
「せ、い、た、い、は、ん、の、う、ば、ん… わ、た、し、を、じ、っ、け、ん、た、い、と、お、な、じ、あ、つ、か、い、に、す、る、の、で、す、か?」
「そういうことになりますなぁ。しかし、さきほど申し上げましたように、これもまたすべて銀河帝国のためというわけですから、あなたの考えはまったく反映されないんですよ。なにしろ、あなたは貴重な人材ですから、今後は我が研究所の指示に従っていただくことになると思いますが、まあ、正確にはわたしの指示にですがね。
申し遅れましたが、わたしはクリオ=ラサといいまして、今回のプロジェクトの責任研究者であり、あなたの移植手術の責任担当者でもあるわけです。長い付き合いになりますからね、これからよろしく。あと、わたしの助手でミンム=テシーというものもいるのですが、そのうちにご紹介しましょう」
「じ、っ、け、ん、も、す、る、の、で、し、ょ、う?」
「当然です。しかし、むしろ、今回のプロジェクトで最も重要な事項は、移植された生体機械が、どれほど機能するか、人間の身体と適合できるかでして、あなたの想像されているような実験は行われないと思いますよ。もっとも、そのため生体反応板も従来の実験体の場合より多めに埋め込むことになっています。御存知ですね?」
「え、え、ロ、ゥ、ン、も、う、め、こ、ん、で、い、た、は、ず、で、す、わ」
「そのはずだった。ところが、ちっとも消息がつかめないらしいのです。これより導き出される結論は二つ、生体反応板が機能していないのか、ロゥンが死んでしまっているかです。もっとも、後者の説を信じているものは、万に一人もいませんけどね。
それで、あなたの場合は、生体反応板はまず脳に一つ、これは通例ですね。それから、移植された生体機械に一つずつです。日常生活をしていくにはちっとも不自由はしないはずです。まあ、行動を四六時中監視されているという欠点はありますが、それはしょうがないと諦めていただかねばなりませんね」
「……わ、た、し、に、か、ん、ぜ、ん、な、か、ら、だ、を、あ、た、え、て、く、だ、さ、る、の、ね……?」
「そのとおりです。すべて、もとのように復元してさしあげますよ。我々の生体機械が、いつまでも旧式のロボットと間違えられないためにもね。そのかわり、あなたには我々に協力する義務があるということですかな。実験体とか生体反応板はおまけのようなものと考えていただいたほうがいいかもしれません」
「……ラ、サ、は、か、せ」
「なんでしょう?」
「わ、た、し、ロ、ゥ、ン、を、つ、か、ま、え、た、い、の、で、す」
「捕まえてどうしますか? フェール博士の研究を引き継がれるとでも?
今回の事故で、フェール博士の残された諸データについては、とりあえずべつの研究室に移されたという話ですが、なにしろ、相手がリオネス人では、危険が大きすぎるということで−−−だれも、事故死などはしたくないということでしょうね−−−しばらくは凍結しておくのではないかという話もあるのですよ。なかなか貴重な実験データばかりだったでしょうに、なにしろあの事故の後では、どれだけ残っているのかもわからないそうですし」
「い、い、え、こ、の、て、で、か、れ、に、わ、た、し、と、お、な、じ、め、に、あ、わ、せ、て、や、る、ん、だ、わ」
「フェール=リオネス研究室を吹き飛ばした、超能力者をですか? 残念ながら、いくら生体機械が優秀でも、それほどの耐性を持つものはまだ開発できていないんですがねぇ。これには、いくつかの点で実行しがたい問題がありまして。超能力者の確保はなかなか難しいですし、生体機械の製作にはデリケートな機械ですから時間がかかりまして、そう頻繁に耐久度のテスト実験は行えませんからね」
「い、い、ん、で、す、わ、た、し、ず、っ、と、ゆ、め、を、み、て、い、た、ん、で、す、か、ら、ロ、ゥ、ン、に、う、ら、ぎ、ら、れ、る、ゆ、め、を、ず、っ、と……ね、ぇ、き、か、い、で、も、ゆ、め、を、み、る、の、か、し、ら……?」
「半分以上はあなた自身なのだから、夢を見るのでしょうね。脳は完全に残っているんですし。しかし、本当のところは、我々にもわかりません。人類始まって以来、夢を見るという行為について、いかなる信頼できる説もないですから。なにしろ、これは帝国の有史以来、初めての試みなのですからね」
「は、か、せ、に、お、ま、か、せ、し、ま、す、わ、す、べ、て…わ、た、し、に、は、そ、れ、が、さ、い、り、ょ、う、の、ほ、う、ほ、う、の、よ、う、で、す、か、ら……」
「ご心配なく、クローディア。次に目が覚めたときには、あなたは自信をもって鏡を覗いてください。あなたの記憶と寸分たがわないあなたを再現してさしあげられる。そのために、ここにあなたの完璧な立体画像も用意しましたし、最高の技術を持つ整形スタッフもいるのですからね」
「だ、と、い、い、の、で、す、け、れ、ど……」
「もちろんですとも。
さあ、眠ってください。そろそろ、第一回目の手術が始まります。何回かにわけて手術は行うことになっているのです。
今日はわたしたちには長い一日になりそうです…」
「−−−手術は無事に終了した。接合した部分も、いまのところは順調に回復しているようである。
患者の意識が目覚めしだい、研究所内の専用隔離病棟に移し、包帯がとれるのを待つこと。
リハビリテーションに入る前に、患者をわたしの研究室内に個室を用意したので、そこに移し、患者の私室とするものである。
以上が、登録番号T49740522の実験体にまつわる第15番目の報告である。
クリオ=ラサ記す」