ヨーロッパを震撼させた実在の連続殺人犯の軌跡を追った、ドキュメンタリー・タッチの映画。なぜ人を殺してはいけないのか、なぜ人を殺すのか。これらの問いに答えはないのかもしれないけれど、人として答えを見つけたいと思わされます。
イタリアのヴェニスで夫婦2人が惨殺されるという事件が起きた。それから5年後の南仏。ディスコでカートと名乗る若者と知り合った少女レアはその日のうちに恋に落ちた。カートと逢瀬を重ねるうちに、レアは次第に彼の言動に疑いを抱くようになる。同じ頃、南仏では銃による警官殺し、発砲、強盗殺人、誘拐など、動機のわからぬ凶悪犯罪が連続して起きていたが、刑事トマはこれらの事件を同一犯によるものだと考え始めていた。カートは時にアンドレと名乗り、強盗と殺人を繰り返す。その目に宿るのは本物の狂気なのか...?
不条理な事件。映画はしかし、カート(ロベルト・スッコ)の視線から事件を描くことはせず、犯人を希代の凶悪犯ともただの狂人とも、逆に反社会的なアンチ・ヒーローとして描くこともせず、ただ証言による事実、周囲から見たロベルト・スッコ像だけを描き続けます。ラスト、スッコの死により事件は迷宮入りしてしまいますが、鏡のように我々観客には事実だけが突きつけられるのでした。
思えば、こういう抑制的な映像は昨今のワイドショー化したテレビにこそ求められているのかも、なんてことを思いました。
(了)