ブラックボード

ブラックボード

イラン、2000年
監督:サミラ=マフマルバフ
出演:サイード、レブアル、ハラレ、レブアル少年、ほか
見たところ:渋谷シアターイメージフォーラム

 実は予告編というのに弱いのです。予告編というのはおいしいところだけつまみ食いでやっているようなものですから、どんな映画でもおもしろそうに見えるのは当たり前なんですが、予告編見て行って、だまされた代表が「ミッションインポッシブル2」でした(トム=クルーズがかっこいいだけじゃん)。で「ブラックボード」。マフマルバフ映画家族特集のラストナンバーが今回の大本命。この映画が見たいばっかりに寒空の下、出かけてまいりました。

 爆撃によって学校をなくした先生たちが黒板を背負ってイラン各地を放浪していました。子どもを見つけて教えること、勉学意欲のある人なら誰にでも教えて、その報酬にわずかな金なりパンなりをもらうために。とある峠の分かれ道で、集団と別れたサイードとレブアルが狂言廻し。二人の姿を交互に追って、物語は進みます。最初、村に向かったサイードはおじいさんに手紙を読んであげたものの生徒が見つかりません。村を出て避難民らしい老人たちに出逢い、クルミ40個と引き替えに国境まで案内することになりました。彼は避難民のなかでただ一人の若い女性ハラレとひょんなことから結婚することになりましたが、彼女は子どもの世話と病気の父親のことしか眼中になく、サイードには見向きもしません。唯一の財産である黒板を持参金代わりにハラレと結婚したサイードでしたが、イラクとの国境を越えるつもりはなく彼女と離婚することになります。ハラレはもらった黒板を背負い、息子の手を引いて、国境の向こうへ歩いてゆきました。黒板には「私はあなたが好きです」という皮肉な文字が。もう一人、山に向かったレブアルが出逢ったのは、密輸品を背負って国境を行き交いする少年たちの集団でした。重い荷物を背負って、時に国境警備兵に追われ、撃たれるという危険を冒して、彼らは常に旅をしていました。少年たちはレブアルの奨める読み書きにも興味を示しませんでしたが、レブアルという少年だけが字を習いたがり、旅をしながらの青空教室が始まりました。その途上は困難なものとなり、追われる少年たちは集団を分けて、後で合流することにしました。熱心に勉強を続ける二人のレブアル。けれども少年が初めて自分の名前を綴った日、彼は兵士に撃たれ、他の少年たちも銃弾に倒れてしまうのでした。

ドキュメンタリーのような映像。てっきり感動作かと思っていたのにどうしてどうして、衝撃の幕切れであります。お涙ちょうだいに流されない、これが現実なんだという視点は末恐ろしいものさえ感じてしまいました。監督、この時20歳なんですぜ。

サイードが一緒に旅をしたのは、国を持たぬクルド民族です。イラン、イラク、トルコにまたがる地域に分布してて、世界でも最大の少数民族だそうです。国を持たない(持てない)がゆえの悲劇を、このような映画にすくいとって見せた監督の力量には、ただただ頭が下がる思いがしました。こういう視点てハリウッド映画にはないもんね。

(了)

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