原節子

原 節子

知らない人の方が多いかもしれません。引退されてからもう何年も経つし。でも艶やかな薔薇のような、この方ほどの女優さんはいまはいないと思います。日本映画界でいちばん美人(違うと言い張る人は対抗馬をあげてください)。

40代で引退されてしまった原さんは、スクリーンのイメージそのままに結婚することもなく、鎌倉辺りにひっそりと住んでいるそうです。その潔さ、老醜をさらすのが当たり前みたいな今の芸能界じゃ考えられない。

「晩春」、「東京物語」と小津安二郎監督の作品が圧倒的に多い原さんですが、「白痴」のところでも書いた通り、黒澤明監督の「白痴」こそ白眉だと思ってます。

不幸な生い立ちの那須妙子が、白痴であるがゆえに赤ん坊のように純粋な亀田に狂おしいほどにひかれ、それでも彼のためを思って身を引いてしまう。黒い、全身を覆うコートに身を包み、ただ凛と立っているその姿には亀田に寄せる深い愛情と哀しみと、それがゆえの憎しみまでにじみ出ているようで、私は原作読むまで、「白痴」の主人公は那須妙子(=ナスターシャ)だって信じて疑いませんでした。それぐらいの存在感です。

となると、逆に那須妙子や、お守りまで取り替えっこした赤間の方が亀田に振り回されるように見えてしまうものでして、いわゆる悪役が出てこないこの物語のなかで、いちばん無意識の悪意を持っていたのは、亀田の方じゃないかなんて思えてきたりして。ああ、入れ込みすぎかもしれません。

わりとよく通う黄金町の映画館シネマ・ジャック&ベティで原さんの特集を組んでくれたことがあります。「晩春」見たけど、ちょっと物足りなし。お嬢様って役柄が多いんですけどね、それだけの方じゃないと思うんですよ。

(了)

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