ロード・オブ・ザ・リング(字幕スーパー版)

ロード・オブ・ザ・リング(字幕スーパー版)

アメリカ、2001年
監督:ピーター=ジャクソン
出演:フロド=バギンズ(イライジャ=ウッド)、サムワイズ=ギャムジー(ショーン=アスティン)、ガンダルフ(イアン=マッケラン)、アラゴルン(ヴィゴ=モーテンセン)、レゴラス(オーランド=ブルーム)、ギムリ(ジョン・リス=デイヴィス)、ボロミア(ショーン=ビーン)、メリアドク=ブランデーバック(ドミニク=モナハン)、ペレグリン=トゥック(ビリー=ボイド)、他
音楽:ハワード=ショア
見たところ:厚木シネマミロード

 期待と疑念に充ち満ちて観た映画は、後にも先にもこれだけかもしれない。あの、読んでいるだけで映像が見えてくるような「指輪物語」の映画化です。期待するなって方が無理だし、期待しろって言われてもねぇ。

で、結論から先に言うと、映画としては○。原作、それも瀬田貞二さんの訳で育った身としては△というところであります。でも次も行くとも。最後まで付き合うともさ。

まず不満なところ。タイトルを初めとする固有名詞がカタカナまんまだったり、別個の訳になってる。すごい不満。ストライダー(韋駄天)ではなくてやはり馳夫であってほしいし、アイセンガルドではなくてイセンガルド、ロスロリアンではなくて(ここでたきがはは密かに吹いた。「タクティクスオウガ」じゃないって)ロスロリエンであってほしい。ましてやシャイア(ホビット庄)、ブリー村(粥村)、(足高家)、(山の下氏)などなど、もってのほかじゃー!! 足高家なんて、わずか一瞬のシーンだったけど、どうしてああ答えたのか、原作読んでない人には意味がわからなかったろうなー(ビルボが「足高家の皆さん」と呼びかけたところで、当人が「足上家だ」と答えたのは、足をテーブルの上に乗っけてたからなんよ)。少なくとも、英語圏じゃない観客にはあのニュアンスは伝わらないだろうなー。もう少し、瀬田訳の、あの雰囲気を大事にしてくれてもよかったんじゃないですかね。レンジャーとかストライダーじゃかっこよさそうじゃない。でもあれは、アラゴルンの事情を知らない粥村の人びとが侮蔑的に言ってるんだよ。野伏とか馳夫ってそういう意味なんだよ、としょっぱなからテンション上がってしまいました。でも、他の単語はともかく、「馳夫」は後々まで出てくるので、こだわってるんですよ。粥村の人が侮蔑的に呼んだ「馳夫」に、旅の仲間であるホビットたちは「さん」を付けて呼ぶ。いいシーンだと思うんですけどねぇ。少なくともサムには「馳夫さん」と呼びかけさせてほしかったね。

不満その2。サムがハンサムすぎるー。サムはあんなにかっこよくてはいかん。ちょっとださいくらいのいも兄ちゃんでなければいかん。誤解のないように書くと、たきがはのいちばん好きなキャラクターはサムです。フロドの従者、庭師、サムワイズ=ギャムジーなのよ。第一人称は「おら」だし、語尾の訛ってるサムじゃないといやー。「フロド様」って呼び方はスマートすぎますね。やっぱり「フロドの旦那」こーでねーと。ただ、そういう好みは置いておくとしましても、サムのセリフ廻しに統一性がないのは勘弁してほしかったね。メリーとピピンの扱いが似てるのも困った。ピピンの方がやんちゃなのよ。

アルウェンが出すぎとか、エルロンドに気品がないとかはまあどっちでもいいです。元々出番のそれほどない人たちなので気にならなかった。アルウェンの役回りだって、元々大して出番のないグロールフィンデルの役を、さらに出番のないアルウェンに割り振っただけじゃないですか。ただ不満その3。なんじゃ、あの賢人会議は。感情的にわめきあって、フロドに責任なすりつけただけじゃん。ああいう時にいちばん冷静なガンダルフまで何やってるんですか。エルロンドの言葉が空々しく聞こえたぞー。

原作読み直すと、やはりギムリの扱いが悔しい。その4。大体、トールキン教授の描いたドワーフはあんなじゃないのに、どうしてああ歪んだドワーフにしたがるんだろう。違うんだよー、あれは本当のギムリじゃないのよー。比較するとレゴラスかっこいいよね。いい役もらったよね。でもさ、あのレゴラスとあのギムリが、ロスロリエン以来の大親友になるなんて信じられるか? ロリエンから大河アンデュインにエルフのボートでこぎ出した後半、レゴラスとギムリが仲良く同じボートに乗ってたなんて信じるか? それはかの中つ国でも希有な、種族を越えた友情だったのだぞ。ギムリの数少ない序盤の見せ場まで削りやがってー!! ついでにガラドリエルの奥方(ケイト=ブランシェットは奥方と言うには無理があったけど、エルロンドよりずっとまし)の贈り物はなくなっちゃったから、あーんな台詞やこーんなシーンもなしってことね?

不満その5。フロドが若すぎ。イライジャ=ウッドはいい顔するんだけど、果たしてラスト、どうかな、と心配になる。はっきり言って、たきがははフロドという主人公が特に好きなわけではなかった。なんとなーくな主人公、脇役のがいいキャラクター、そんなイメージしか持ってなかった。でも嘘だ。「指輪物語」の主人公はやっぱりガンダルフでもアラゴルンでもなくて、フロドじゃなくっちゃいけないんだと気づいたのが、フロドが最後の方でサムに言った台詞でだった(遅いよ)。山と積まれた「指輪」関連の便乗本(角川書店なんてちゃっかり協賛してるけど、それまで見向きもしなかった会社が見苦しいよ)。原作のラストで立ち読みだというのに不覚にも、そのフロドの台詞でもらい泣きしそうになった。若いイライジャ=ウッドにあの台詞が吐けるか、あれほどの感動をくれるか、心配しているのである。ちなみに原作のフロドは、サム、メリー、ピピンよりずっと年上で、人間だと30代半ばくらいになる。メリーとピピンが羽目を外すのも若さゆえの過ちなのよん(うそです)。

不満その6。指輪の幽鬼弱すぎ。アラゴルン1人で5人も追い払えるような相手ではなかったはず。アルウェンが馬で逃亡するシーンはおっけー。「エルフの馬に追いつける馬はいない」のだよ。あと、こっそり行くはずの旅の仲間がモリアでああも大々的に戦闘してたのも疑問が残る。あんな剣の大振りで体力続かねーじゃん、と思うのは、やはり華麗な剣さばきの時代劇が頭にあるからでしょうけどねぇ。

とこれだけくそみそにけなしたけれども、やはり次も行く理由としては、それでも、あの大作を、よくぞまとめた、映像化してくれたって思いがあるからでして、良かったところって言ったら、まずはその一点に尽きるのだろうし、それだけ私は「指輪物語」という小説が好きなんだというわけです。それは、あらゆるファンタジー(ゲームも含む)が、この小説なくして成り立たなかったろうというレベルの話ではなくて、純粋に「指輪物語」が好き、中つ国が好き、瀬田さんの日本語訳が好きなのです。だから原作は最近の、瀬田さんの訳に修正の入った版ではいけません。のんののーん(おまえ、なにもん)。

だから、次の「二つの塔」や「王の帰還」で、あの中つ国がどんな映像になってるのか見たいのです。

けなしてばっかりでも何なので、ほめるところも。

ホビットの中ではビルボがいちばん良かったと思います。一つの指輪をフロドに譲る前の若々しさと裂け谷で再会してからの老いはわかりやすい見せ方だったし、指輪をフロドから奪おうとして変貌したところも良かった。キャラクターとしてはビルボがいちばん原作のイメージ通りだったなと思います。欲を言えば、ビルボに「いいですよ、私が行きますよ」と言わせてほしかったけどね(賢人会議に出てもいなかったけどな)。

原作とはイメージ違ったけど、おひげのアラゴルンもまずまずでした。ただ、今回のラストで王としての自覚を得た彼が、今後、「王の帰還」までにどれだけ王らしくなれるのか、期待半分てところかも。もっともこれは、他のエルフのキャラクター、特にエルロンドやガラドリエルのような賢人にも言えることなんですけど、現代人の俳優が、何千年も生きているエルフの賢人を演じるのは無理だなと思うのですよ。だってわしらそんなに寿命長くないもん(そこを演じるのが俳優の妙なんだけどさ)。だから、アラゴルンのキャラクターの描き方は無難な選択なのかもしれないけど、今後、どうかね、という感じ。ただし、ラストのフロドと別れる時のアラゴルンは完全な出しゃばりじゃい。フロドはボロミアの態度で決心を固めたのであって、みんなにはさよならも言わずに旅立ったのだ。

ガンダルフは可もなく不可もなくガンダルフでした。バルログとの対決は良かったけど、ここで、アラゴルンとボロミアが助太刀に入るのをどうして削ったんですかね。賢人会議の時以外はガンダルフらしくてぐーでした。いちばん大事な台詞も、うまいこと場所を変えて入れられていたし、かくなる上は次で飛蔭を忘れないでねー。

サルーマン(サルマンではない。サルーマンじゃい)もまずまず。ただ見るからに悪役ってところが、次回でどうなるのか気になるし、出番多すぎたかも、アルウェンよりもこっちのが出すぎだよ。何でも知ってるってのもちょっと違うよ。その上にはサウロンがいるんだよ(この眼の効果、けっこう好きっすー)。サルーマンはその手先にすぎないのよ。自分ではうまく立ち回っているつもりなんだけど、なキャラクターだよって思いました。

次作は1年後だそうです。今度はゴクリ(ゴラムっていやじゃ)も出るのでいちばんの楽しみです。でも、次からでもいいから、字幕の担当を変えてもらえませんかね。戸田奈津子さん、ちょっと今回のはひどすぎるっすよ。

(了)

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