今年の三指に入る傑作(あとの2本は「少林サッカー」と「ダスト」。独断と偏見ですが)。テーマの重厚さと姉妹の愛もさることながら、エンターテイメントしてる。さすが、ケン=ローチ監督。見逃さないで良かった。
題の「パン」は人間として生きる糧、「バラ」は生活を彩るもの。人は生きるだけではなく、生活に彩りも必要なのだ、という人間らしさの訴えで、1912年に生まれたスローガン。90年も前のスローガンがまだ現実に叫ばれるってことは、人間て進歩がないな、と思ったのはわしだけか?
メキシコから姉を頼ってアメリカに不法入国してきたマヤ。姉のローサのおかげで清掃会社で働くことができたが、その待遇は劣悪なものだった。納得できないものを感じながら、一生懸命働くマヤは、ある日、ビルの警備員に追われる、サムという青年を助ける。サムは「正義を清掃員に」という組合の行動員で、マヤの働く清掃会社を組合に加入させようと東奔西走する毎日を送っていた。サムの話を聞くうちに自分たちの待遇を改善したいと願うマヤたち清掃員。しかし、サムたちの運動を手引きしたことで、管理者は激怒し、マヤたちをくびにしてしまう。裏切り者が姉であったことを知らされ、マヤはローサに真相を追求するが、マヤたち家族を食べさせるため、夫の病を治すため、マヤを清掃会社に入れるため、身体を売ったことを告白する姉に、マヤはなにも言えなかった。大学に入り、奨学金をもらうために働いてきた同僚のルーベンまでとばっちりを喰ってやめさせられたために、マヤは最後の学費をガソリンスタンド強盗をして稼ぎ、サムたちとデモに参加する。デモは成功した。サムもマヤも警察に捕らわれるが、とうとう清掃会社が条件を呑んだのだ。しかし、警察に捕らわれたことでマヤの強盗も発覚し、違法移民であるマヤは二度とアメリカの土を踏めず、メキシコに強制送還されてしまう。見送りにくるサムや仲間たち。マヤのバスを追うローサ。「愛してる」「元気でね」姉妹の絆を確かめあって、マヤを乗せたバスはアメリカを離れていった。
最近あらすじが長くてすみません。でも、この映画はぜひ見てもらいたいです。違法移民であることから、立場の悪い清掃員たち、それにつけこむ会社。どんなに待遇が悪くてもくびにされることを恐れてなにも言えないでいる清掃員たちが、サムの登場で知るべきことを知り、クライマックスでデモを行う。そして勝つ。このカタルシスはぜひ味わっていただきたいです。
マヤのお転婆なキャラクターが、冒頭から愛すべき女性で、すごく可愛いのです。でも、彼女と対照的なお姉さんのローサが衝撃の告白をするシーンでは、一気に比重がローサに移って、マヤの世間知らずなところとか、女性の悲しさとか、魅せてくれるのですな。
クライマックスのデモのところでは、音楽も盛り上げてくれて、予告からうるうるしっぱなし。力強いバンドが格好いいです。
そしてラスト。バスを追いかけるローサとマヤが、信号でバスが止まったために交わす短い会話が、もうこれ以上の台詞はないだろうとばかりに締める。
いい映画です。そして日本もまた、対岸の火事でないことを知らないといけないのです。
(了)