この映画の予告はなぜか1回も見てません。でもこの映画は広告かチラシを見た時から絶対に行こうと思ってました。原題の「デルバラン」というのは舞台となる町の名前で、ペルシャ語で「恋人たち」という意味だそうです。イランにかつて、身内や恋人の行方を尋ねるカフェがありまして、その名が由来。字幕担当のショーレ=ゴルパリアンという方はイラン映画ではなじみの方でして、マフマルバフ監督の映画を見漁っていた時によく見ました。
アフガニスタンからの難民キャイン少年は14歳。彼はアフガニスタンとイランの国境にほど近いデルバランのカフェを営むハンとハレーの老夫婦のもとに住み込み、そこで働き始める。故障した車の修理、鳥撃ちの猟師のもとへ、キャインは走り、くるくるとよく働く。老夫婦はキャインをかわいがり、最初のうちは表情の硬かったキャインも徐々に打ち解けてくる。しかしカフェによく来る刑事が、ある日キャインを不法滞在を理由に警察に連れていってしまった。
娯楽だけが映画じゃない。そんなことを思いました。「アレクセイと泉」という映画で音楽がほとんどかからなかったと書きましたが、こっちはもっとないです。ラジオから流れる流行歌ぐらい。でもこれでいいのだ。そしてパンフレットを読んで思った。イランというのは当たり前に詩人の国なのです。ラストで流れる詩は、32歳で夭折した詩人の女性が自分で読んだ詩で、イラン人ならだれでも知ってることなんですって。下手な音楽は要りませんな。
抑制のきいた映像、必要最小限の台詞、そして決して「かわいそうな子ども」じゃないキャイン少年のけなげさと凛々しさ、時にはっとするほどハンサムな表情(ほんとにいい顔するんだ)。地味なんだけど良い映画です。
主役のキャイン少年は、撮影後アフガニスタンに戻り、行方が知れないそうです。その無事を、観客の一人としてせつに願わずにおれません。
(了)