1973年8月、元韓国大統領候補・金大中が真っ昼間の東京の一流ホテルで拉致され、5日後にソウルの自宅付近で保護された、という事件が実際に起きました。しかし、その真相はいまだはっきりとしておらず、そこに題材をとったポリティカル・サスペンスです。配給が「シュリ」や「JSA」で有名なシネカノン、たきがはの好きな映画はここの配給が多かったりします。この映画の予告も何回か見ました。キャッチコピーが「国を愛する心が人を殺す」というんですが、なにをいまさらなんて思ったりしました。たきがはのなかでは、愛国精神ってそんなほめられたものじゃないんだけどな。
という話はさておきまして、映画としてはおもしろかったです。それも、登場人物のほとんどに感情移入できないというたきがはには珍しいタイプの映画であったにもかかわらず、日本映画もまだまだすてたもんじゃないな、と思いました。ちゃんとエンタティメントしてる。
感情移入できないのは、この映画が拉致した側、KCIAや自衛隊の側から描かれているからです。富田は1970年に割腹自殺した三島由紀夫に共感するところのある自衛官で、「戦争のしない軍隊は軍隊か」と上官にくってかかったり、金大中の拉致に「これは俺の戦争なんだ」と言って必要以上に深くかかわっていく。KCIAの実行者金車雲も「やらなければ自分も家族も殺されるんだ」と言って、暴走気味に計画を進めていく。その思想にはこれっぽっちも共感できるところはないのだけれど、でも彼らにもそれぞれに事情があって、そういうドラマがあるんだよと思わせるところがいいのです。決して美化するわけでもなく、かっこいいわけでもないのだけれど、日陰者になってしまった彼らの生き様は、共感とか同情とはまた違った感動を与えてくれたのでした。
ちなみにこの映画の監督は、たきがはの苦手な「顔」の監督です。だからなんだってわけじゃありませんが。
(了)