シュリ

シュリ

いまさら何か言うことはないのかもしれない。今の私のなかでは「シュリ」が文句なしに No.1。

初めて逢ったその日から〜って歌じゃないけれど、私はこの映画に取りつかれている。いろんなサイトでいろいろと言われているんだけど、何を聞いても「でも自分が好きなんだからいいじゃん」ってぐらい。憑かれてますな。

オープニングの雰囲気がまず好きになりました。低音でずーんと響く音、低いバスのコーラス、現れては消える出演者名(たぶん。ハングル読めないので)、そしてタイトル。どっかの映画が明らかに真似をしてました。あの見せ方は明らかにシュリのものです。1分足らずの、この短いオープニングは、すでになにかを予感させ、期待させるには十分でした。か、かっこいい! その瞬間からこの映画に取りつかれたんだろうと思うのです。しんぷる・いず・ざ・べすと。

のっけからぶっ飛んだアクション。しかも台詞はわずかに2つだけ。饒舌な説明は要らない。ただ見ろって感じ。音楽がまたいい。盛り上げて短調になる。それだけでもう、この異常な訓練をしている、ただ一人の女性に課せられる運命の過酷さがわかるような気がしました。そして旅立ち。2回目以降は思わずこのシーンで涙が出ちゃいました。これから来る未来もなにも知らない、ただ誇らしげに笑んでいる彼女が単純に可哀想で。なにしろ全編通して、彼女が笑うシーンってここだけなんですもん。

ストーリーについては、有名な映画だから、特に書くまではないと思うんで省きます。とことん好きなところだけ書いておこう。

主演のハン=ソッキュ氏、韓国では出る映画全部ヒットしたという実績の持ち主。決してハンサムとか目立つキャラクターではないんですが、なんつーか演技派。というより、そこにいることがまるで当たり前で、役になりきってしまうと言いますか、役を自分のものにしちまうと言いますか、どんな役をやってもその役柄になってるし、ハン=ソッキュでもあるという。この方の次回作が楽しみです。

ヒロインのキム=ユンジン嬢。凛々しさとけなげさと哀愁さえも漂うような女優さん。イ=バンヒとして銃を構えた彼女の眼差しが大変好きで、「燃ゆる月」を東京国際映画祭に見に行かなかったことを深く後悔しているところです。ていうか、「カル」はすぐに公開したから「燃ゆる月」も2001年の前半にはかかると思ったんですよ。それがいつまで待っても来ないじゃんかよー。おれは阿呆や。たとえお稽古事を放ってでも行くべきだったんや。で、「シュリ」見てて大発見だな、と思ったのがクライマックス、愛するユ=ジュンウォンに撃たれたバンヒ(=ミョンヒョン)が、頷いたところ。2回目で確信した。彼女はやっぱり頷いてみせたのだなと。ジュンウォンだけにわかるようにほんの少し。

そしてエンド・クレジットで流れる「When I Dream」。サントラではこの曲が冒頭に来て、最後はミョンヒョンの留守番電話で終わります。オートリバースで聞いてると、巡る巡るメビウスの輪。うまい構成だなと思いました。車を運転する時のB.G.Mが100%これで、またいくら聞いても飽きないたちなものですからそれこそネバーエンディング。お気に入りを通り越してなくてはならないサントラです。しかもジャケットが違うというそれだけの理由で韓国版も買っちゃいました。こっちのがかっこいいんですもの。うふ。

「クワイエット・ファミリー」、「反則王」と変な役もうまいソン=ガンホ氏は、誠実な相棒役でけっこうイメージ向上したそうで、友情あふれるキャラクターぶりがちょこっとおいしい。派手な活躍はジュンウォンに譲るけれど、ミョンヒョン=バンヒがばれるところとか知能犯じゃーって感じが通好み。

OPの事務所で魚の水槽洗いをさせられて文句ぶうたれていたコネ入社(落下傘と言うそうな)のオ=ソンシクが、大詰めでパク=ムヨン相手に孤立したジュンウォンを助けに駆けつけて、なんとパク=ムヨンにとどめまでさしちゃうところがけっこうつぼついてて、好きなシーンだったりします。それまでは「コネ入社」と馬鹿にされ、CTXの実験に立ち会わされた時には「臆病者」と言われて、ほんとに情けないキャラクターだったのに、CTXの伏線でラストの見せ場をもらうとは、「お主、なかなかやるな」と言いたくもなり、次の出演作を探してるんだけど見ないですねぇ。

そして外してはいけないのがパク=ムヨンことチェ=ミンスク氏。ぱんぱかぱーん。冷酷非情な第8特殊部隊の隊長で、影の主役でもあり、ジュンウォンとは仕事と恋の敵同士。この役のために10kgも痩せたそうで、確かに「クワイエット・ファミリー」見ると丸いの。で、パク=ムヨン。かっちょいいです。一押しです。出てくると空気が引き締まります。なかでも台詞廻しがよいです。携帯電話でジュンウォンと話す時とか、バンヒと話している時、なかでもラスト、単身乗り込んできたジュンウォンに祖国の悲惨な実態を話しているところなど、抑えている激情がたまらずあふれかえってきて、ここだけ興奮してしまうのは、パク=ムヨンの最高の見せ場だと思うわけです(テレビで声を当てた奴は肝心要のこのシーンの出来が最低でした。許さん)。それからオ=ソンシクがOPを引き連れてきて、とうとうジュンウォンとの一騎打ちに及ぶのですが、ここなんか勝った方がバンヒ、あるいはミョンヒョンの心も射止めるって感じで恋敵と言うのはそう思ったから。結局ジュンウォンが勝って、爆発を止めるのですが、死に際のパク=ムヨンが何を思っていたか、今もってぴんとくる台詞を思いついてません。「バンヒを任せた」ではない。「バンヒよ、任せた」でもない。ずっと戦って過酷な戦場にあり続けてきた非情の人が、死んで初めて得られた安らぎだったのかな、という気もしてます。くぅーっ。

ただし、これほど好きな「シュリ」にも一点だけどうしても理解できないところがありまして、ジュンウォンの警察のお友だちが、まだ傷も癒えてないであろう中盤でのこのこと現れて、パク=ムヨンの返り討ちにあってしまうんです。なんか不自然なシチュエーションじゃんって思うんだけど、誰か説明できる方、いませんかね? ノベライズの「尾行」だって部下にやらせればいいじゃん。

なにはともあれ、「シュリ」はおもしろいです。一番の座は当分崩れますまい。でも今度見る映画はもっとおもしろいかもしれない。だから映画はやめられません。「シュリ」以降、映画の見方が変わってきたんで、影響されてるんだなぁと思いますね。

(了)

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