聖なる嘘つき

聖なる嘘つき あるいは 嘘つきジェイコブ

偉大なるコメディアン ロビン=ウィリアムズの、第二次大戦末期、ポーランドとあるゲットーでの物語。

ゲットーとは、今はないヨーロッパに中世からあったユダヤ人強制居住区。かの富豪ロスチャイルド家も始まりはこのゲットーから。

ユダヤ人撲滅をはかるナチス・ドイツがこのゲットーを悪用してヨーロッパ各地にユダヤ人を押し込め、職を奪い、自由を奪い、人としての権利も生も奪っていったのは周知の通り。その劣悪な生活環境は、朝になるとゲットーには死体が道路に当たり前のように転がっていたと聞くから凄まじいものだ。もちろんその行き着く先は絶滅収容所となるわけで、この映画の登場人物たちもいつかその日が来るであろうことを知りながら、毎日を精一杯に生活している。

 ここらへんのゲットーの事情をご存じない方は、「ショアー」とか「コルチャック先生」を観るか、文献あたるのをお勧めします。

ロビンさんの笑顔は泣き笑顔だ。どんなに笑っていても泣いているように見える。ロビンさんを語る時、この笑顔は決して外せない。この笑顔が好きになったのは「レナードの朝」の医師役からだ。

いいよね、あの人。ロバート・デ・ニーロ主演で話題になった映画だが、見終わった時には怪演デ・ニーロそっちのけで私はロビンさんにひかれていた。

「パッチ・アダムス」を見たのは「聖なる嘘つき」の後。これもいいですね。笑いと泣きが替わりばんこにやってくる。ロビンさんの代表作を一本選ぶのならば、「パッチ・アダムス」だと思いますもん。ラストの卒業式シーンが好きだ。

でも「聖なる嘘つき」を私は選んでしまう。登場人物もいい。

短絡的だけど勇敢なミーシャ。登場人物のなかでいちばん勇気のある少女リナ。私の一押し、キルシュバウム医師。ちょっと見栄っ張りの元、自称シェイクスピア俳優。ジェイコブと割の合わない取引をさせられた親友の床屋(ひげ剃りは剃刀があればできるけど、パン屋は粉がないとね)。

こういう映画を見ると、いつも自問自答してしまう。私が同じ状況にいたら、私がジェイコブだったら、こんなに勇敢になれるだろうか、と。そうありたいと思い、そうできないかもしれないと思う。けれども、現実には勇敢であろうと臆病であろうと、数百万人のユダヤ人が殺された。

自分だったらどうする、そんな問いを繰り返し、考えるために、そして勇気を分けてもらうために、私は特に第二次世界大戦を扱う映画を好んで見るのかもしれない。

(了)

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