Side Stage
「よくここまで来たわね、誉めてあげるわ。あら、あなたが噂の反乱軍のリーダーさん? けっこう可愛い顔しているじゃない。反乱軍なんて勇ましいの率いているから、どんな女丈夫かと思っちゃったわ。だけど、ほんとはあなた、性格ぶすでしょ? あたしにはわかるんだから。あなたの部下って苦労させられてるんじゃないの? あたしはこう見えても、れっきとした魔女なのよ。いまも魔法の研究をしてたところ。でも、あんたなんかには教えてあげないわ。これはあたし1人だけのもの。ふふふ、悔しいでしょ? いいのよ、怒っても。でも、皺になるから気をつけてね!」
「皺の心配をするのは私よりあなたの方だろう。あなたの研究とやらにも興味はない。私が知りたいのはバルパライソで行方不明になったと言われた4人の行方だけだ。あなたの周りにいる南瓜人間が、そのなれの果てか?」
デネブの、震えが来るほどの美貌が見る見るうちに怒りにあふれた。美人なだけに怒るとまた凄みが増す。
「ちょっと待ちなさいよ! いま、聞き捨てならないこと言ったわね。皺の心配をするのはあたしの方ですって?」
「私の2倍以上も年上のあなたにそんな心配をされる覚えはないと言ってる。話す気があるのか?」
「あたしがあんたより年上ですって! もう許さないわ!
アニー、エパポス、ワイズ、シーガル! この女、めっためったにしちゃいなさい!
言っておくけど、この子たちは南瓜人間じゃないわよ。パンプキンヘッドっていうの、間違えないでね」
4人の南瓜人間、もとい、パンプキンヘッドたちは自分の頭を外し、蹴り上げた。
目と口のところに穴の空いた4つの南瓜は、上がるにつれて大きさを増し、再度落ちてきた時には10倍もの大きさに膨れ上がっていた。
だが黙って曲刀を抜いたグランディーナは、慌てず騒がず、落ちるそばから南瓜を切り刻んで、あっという間に黄色と緑の山を築き上げた。
唖然としたのはデネブとパンプキンヘッドばかりではなかった。
お目付役のウォーレンとランスロット、野次馬でやってきたカノープスも空いた口がふさがらなかったのは右に同じだ。
デネブの高笑いは口から出る前に喉元で止まった。口の端が引きつっている。
攻撃したはずの頭を失ったパンプキンヘッドは、頭がなくても倒れず、デネブの周りを狼狽(うろた)えたようにうろついた。その身体は人間より痩せており、あの南瓜頭をよく支えていられると思うほど貧弱な体格だ。
グランディーナは刀を収め、改めてデネブの方に向き直った。
「もう一度訊く。バルパライソで行方不明になったフランクリン=マイヤー、エドワード=ケント、ダルタニアン=グローバー、エミリオ=バラカンはどこにいる?」
「どいて!」
デネブの目つきが変わった。魔女はグランディーナにも、右往左往するパンプキンヘッドにも構わず、自分の屋敷に戻りかけた。
「待て、デネブ!」
グランディーナが追いかけると、彼女はいきなり立ち止まり、振り返った。
「ねぇ、あなた、あたしを反乱軍、もとい解放軍に加える気はない? いまなら4人のカボちゃんたちもついてきてとってもお得よ」
「え?」
「ええ、あなたの探してる4人はあたしの助手だったわ。別に実験台になんてしちゃいないわよ。無能だから、熨斗(のし)つけて返して差し上げるの。その替わり、あたしを連れていかない?」
デネブの身長はかぶったとんがり帽子がグランディーナと同じくらいの高さで、つまり頭一つ分ほど低い。
彼女は下からグランディーナを見上げて、不意に耳元に囁きかけた。最接近してもしみひとつない肌は、どう見ても20歳前後のものだ。
「あなたの探してる物、どこにあるのか教えてあげましょうか?」
「どうしてそれを知ってる?!」
「おーほほほ! あたしの勝ちね! 蛇の道は蛇、魔法のことは魔女に訊くものよ。あたしを連れていってくれたら、ご褒美に教えてあ・げ・る」
グランディーナの顔色が変わるのを、カノープスはしっかり見た。
だがそれがなぜかはわからない。
ただデネブだけが、勝ち誇ったように高笑いし、パンプキンヘッドたちもおとなしくなっていた。
「わかった。だがその前に4人の居場所を教えてもらおう。そのパンプキンヘッドたちも連れていくつもりか?」
「大事なのは頭じゃないもの。真新しい南瓜をつけてあげれば済むわ。これが4人の最後のお仕事というわけね。いらっしゃい、案内してあげるわ」
デネブがグランディーナの腕をとり、屋敷に消えていった。
4人のパンプキンヘッドが真新しい頭をもらって現れたのと、まだまだデネブに未練たっぷりの4人の男たちが現れたのは、それから1時間ほど後のことだ。
もちろんデネブも意気揚々とやってきた。
戻ってきたグランディーナもいつもと変わりない。
「さ、ゼノビアを落としにいきましょ」
デネブが人差し指を立てて朗らかに宣言した。
「何か嘘っぽいな」
カノープスはそうぼやいたが、それは紛れもない事実である。
旧ゼノビア王国領の東の辺境から始まった戦いは、最初の目標地点に到達したのだ。