Stage Twelve「天空の騎士」7

Stage Twelve「天空の騎士」

シグルドの地を踏んだ時、強い風が吹きつけてきてアイーシャは身体が浮いた。彼女が慌てて手を伸ばすと、グランディーナが力強く引き、抱き寄せてくれる。そうしてもらわなければ、彼女は飛ばされていたかもしれなくて、背筋が寒くなった。
「シグルドへようこそおいでくださいました。スルストさま、フェンリルさま」
カオスゲートの前に整列した騎士たちが丁重な挨拶をする。彼らの外套は濃い緑色のお揃いだった。
「やっぱりフォーゲルさんもラシュディに魅入られたのでスネ?」
「ラシュディかどうかはわかりませんが、おかしなことを命じられました。わたしたちは何とかムスペルムかオルガナに連絡を取ろうと思っておりましたが、結局カオスゲートが開けないので何もできず、このようにお待ち申し上げていた次第です」
「それはご苦労様デス。でも、わたしとフェンリルさんが来たからにはもう安心でスヨ」
「ありがとうございます。大したおもてなしもできませんが、まずはエンテペの町でお休みください。そこで詳しい話をさせてください」
「そうしまショウ。いいですヨネ、フェンリルさん?」
「そうね」
振り返ったフェンリルはアイーシャに微笑みかけた。
「フォーゲルは大地の女神バーサの加護を受けているわ。だから、シグルドがこうして残ったとも言える。彼が過去に何をしたのか、彼らから聞くといいわ」
彼女たちは近くに見えるエンテペという町まで急いだ。町の中に入っても、スルストが言ったとおり、天空の三騎士が2人も来たというのに、特に人びとが歓迎するでなし、実に静かに神殿まで行ったのだった。
「改めて紹介するわ。彼はシグルド騎士団長のバンクロフト=ルーフェルよ。
彼女たちは地上からきた解放軍の人たち。ラシュディのいるゼテギネア帝国と戦っているわ。最初にスルストを解放してくれたのも彼女たちよ。彼女がリーダーのグランディーナ」
フェンリルの紹介に両者は顔を合わせ、それぞれ挨拶をする。それを見てから、彼女はさらに話し続けた。
「バンクロフト、悪いのだけれど、あなたから彼女たちに、フォーゲルのことを話してもらえないかしら? 彼がシグルドで何をしたのか、というようなことをね」
「わたしでよろしいのですか、フェンリルさま、スルストさま?」
「わたしからもお願いしまスネ、バンクロフトさん。彼女たちはシグルドで大昔に何があったのか知りまセン。わたしたちから話すよりもいいと思いマス」
「承知いたしました」
それから、彼はグランディーナたちに楽にするように言った。スルストのような黒い肌でも、フェンリルのような金髪碧眼でもなく、ゼノビアでよく見られるような茶色い髪に青い目のシグルド騎士団長は、ランスロットにはすぐ隣にいてもおかしくないような親しみと錯覚を覚えさせる。
だが、やがて彼の口から発せられたのは、解放軍には4つ目となる天空の島を巡っての重大な事件だった。
「シグルドの大異変。それは1人の騎士が起こした忌まわしい事件です。彼は才能あふれる騎士でしたが、同時に鼻持ちならない自信家でもありました。たとえ騎士団の騎士であっても彼からみれば赤子も同然。彼は世界で最強の騎士でした。彼はさらなる力を求め、そしてついに、暗黒道を極めたのです。彼は、より強い相手を求め、世界を旅し、そしてこのシグルドへたどりつきました。シグルドには天竜と呼ばれる幻のディバインドラゴンがいると噂で聞いたからです。彼とディバインドラゴンの戦いは七日七晩にもおよび、彼が勝利しました。しかし、それを喜ぶ者はいませんでした。死んだドラゴンの呪いを恐れたからです。呪いはドラゴンの死と同時に始まりました。シグルドの大地が崩壊をはじめたのです。崩壊だけではありませんでした。彼の姿は呪いによってドラゴンに変えられたからです。その後、彼はその罪を償うため、神の命令によって天空の騎士となりました。その騎士ですか? お気づきのとおり、騎士の名はフォーゲルと呼ばれています」
バンクロフトの話し方は穏やかだったが、言葉の端々に感情を抑え込んでいる様子もランスロットには感じられた。それも無理はない。故郷ゼノビアが同じような目に遭えば自分とて、そうした者を、そのような事態を引き起こした者を恨まずにいられないだろう。
だが、グランディーナの声音が、そんなランスロットの共感を打ち破った。
「だからといって、あなたがフォーゲルを恨むのはお門違いというものだろう」
「何だと?」
「スルストにフェンリル、この程度の話ならば、あなたたちから話してくれた方がよほど公平だと思うが、そうではないのか?」
そう言われて、2人の天空の騎士は顔を見合わせた。
立ち上がったバンクロフトが彼女にくってかかる。
「何を言うか! フォーゲル殿がディバインドラゴンを殺したりなどしなければ、シグルドは分断されることもなく、人びとも死なないで済んだのだ。分断される前のシグルドは天空の島のなかでも豊かで美しい島であったのだぞ」
「人間がそんなに長生きできるとは知らなかった」
「なに?」
「あなたはシグルドが豊かで美しい島だったと言ったが、その目で見たのか?」
「馬鹿なことを言うな。わたしが見られるわけがないだろう」
「ではシグルドが分断された時に死んだ者のなかにあなたの知り合いや親戚、家族はいたのか?」
「い、いや、いない。ご先祖が生き残ることができたからこそ、わたしもこうして生きていられるのだ」
「ならば、あなたにフォーゲルを恨む理由はないはずだろう。ましてやあなたはフォーゲルに仕えるシグルド騎士団長だ。仕える相手に不信感を持っていて、よく仕えられるものだな」
「ルーフェル家では代々、男子が騎士団に加わることになっている。これは一族の義務なのだ」
「シグルドの人間は皆、あなたのように考えているのか?」
「多かれ少なかれ、わたしの意見に反対する者はほとんどいなかろう。フォーゲルさまは確かに偉大なる天空の三騎士のお一人だが、このシグルドになしたことは、いまもシグルドの民には許し難いことなのだ」
「だがそれは神代、オウガバトルのころのことだろう。シグルドがいまのように分断されてから何年になる? 何百、何千年か? あなたたちは分断されたシグルドしか知らないだろうに、いつまでそうやってフォーゲルを恨み続けるつもりだ?」
「おまえたちには天空の島などどうなってもいいのだろう。だがわたしたちにはシグルドはほかならぬ故郷だ。そのシグルドが滅茶滅茶にされたのに、黙ってなどいられるか!」
「ではあなたたちは、その不満を一度でもフォーゲルにぶつけたことがあるのか?」
「何だと?」
「それにシグルドを分断したのは間接的にはフォーゲルの仕業かもしれないが、ディバインドラゴンがしたことだろう。なぜディバインドラゴンを恨まずに、フォーゲルだけを責める? しかもあなたはフォーゲルが竜の頭になってしまったと言ったな。ディバインドラゴンを殺した呪いを受けたフォーゲル一人に、シグルド分断の責も負わせようとはやりすぎではないのか?」
バンクロフトは拳を震わせていたが、言葉に詰まってしまった。
ランスロットはスルストが「シグルドは保守的だ」と評したわけを理解したが、もしも自分が同じ立場だったら、フォーゲルを恨まずにいられるかはわからなかった。
ただ彼の心情としては、そのような相手に仕えることもできないだろうということだ。忠誠を誓えぬ相手に仕えたところで何の騎士か、それだけははっきりしていた。
「あなたたちはいい」
グランディーナが変わらぬ調子で話し続ける。
「フォーゲルがラシュディに魅了されようと、何もせず、助けが来るのを待っているだけなのだからな。何千年も前の恨み言を当人が聞いてないところで吐き出し、素知らぬ顔で仕える。どれだけの用があるのかは知らないが、シグルド騎士団というのは楽な仕事だ。
時間を無駄にした。スルスト、フェンリル、さっさとシグルド城へ行って、フォーゲルを解放しよう。これ以上、繰り言を聞いていても意味がない」
「本当にいいんでスカ、バンクロフトさん? フォーゲルさんには会ってないんでスカ?」
「お会いしました、スルストさま。反乱軍と一緒に来る、天空の騎士のお二人を倒せと命じられたのです。ですが、わたしたちがお二人に手を出せるはずがありません。それに倒せなどと仰るからには、お二人がフォーゲルさまの敵にまわったということでしょう。ならば、お二人がいらっしゃるのをお待ちした方がいいだろうということになったのです」
「それは賢明な判断でスネ。間違っていませンヨ。でももう1つ聞かせてくだサイ。ラシュディという魔導師と一緒にゼテギネア帝国軍が来たはずデス。彼らがどこへ言ったのか、知りませンカ?」
「申し訳ありません。そのような者たちのことは初めて知りました。わたしたちはいきなりフォーゲルさまに招集されただけなのです。ラシュディという魔導師を見たという話も聞いておりません」
「それはおかしいわ。ラシュディはカオスゲートから来たのよ。あなたたちがカオスゲートの監視をしていなかったわけではないでしょう? 確かに、私はオルガナでカオスゲートを開いたわ。でも、あれは夜ではなかったのだから、誰かが見ていたはずよ」
「それが、どうやら、わたしたちがフォーゲルさまに招集されていた時のことだったようでして、結果的に誰も見られなかったのです」
「フェンリルさん、あなたは覚えていないんでスカ? カオスゲートを開いた時にラシュディはいたんデスカ?」
「そういえば、カオスゲートを開けてくれとは頼まれたけれど、その時にはラシュディはいなかったかもしれないわ。でも、それはどういうこと?」
スルストとフェンリルが黙り込み、バンクロフトも答えは思いつかない様子だ。
グランディーナは、せっかく話を切ったところをスルストが蒸し返したのが気に入らないようだったが、サラディンを見やり、互いに頷き合った。
「あなた方の手を借りずに、ラシュディ殿がカオスゲートを開けたのかもしれない」
「まさか! そんなことができるというの?」
「地上のカオスゲートを開けるのも天空の島のカオスゲートを開けるのも、大した違いではないのだろう。あの方の力をもってすれば、可能なはずだ」
「考えられますネ。ラシュディというのはそれぐらいの力の持ち主のようでス」
「その可能性は否定できないようね。だけど、それにしては甘くない? 私たちが解放されると、ラシュディは考えなかったのかしら? 私たちは魅了して、彼は何をしようとしていたの?」
「そのことなら後で話しましょウ、フェンリルさん。いまはグランディーナさんの言うとおり、一刻も早くシグルド城に行って、フォーゲルさんを解放するのが先ですネ」
「で、ですが、スルストさま!」
「何でスカ? まだ何かあるのデスカ?」
「フォーゲルさまが自分から、そのラシュディという魔導師の配下に入った可能性はありませんか?」
その言葉にスルストもフェンリルもかなり驚いた様子だった。そして2人の驚き方は、バンクロフトの言ったことを肯定しているようでもあった。
「でもスルスト、いくらフォーゲルでもそんなことをするとは思えないわ」
「ですがフォーゲルさんは暗黒道も極めた最強の剣士でしたネ。天空の騎士としてはあるまじきことですが、万が一ということはあるかもしれませんヨ」
「あなたはそんなにフォーゲルが嫌いなのか?」
「そ、そんなことはないが、かつてシグルドを破壊した方だ。それにラシュディという魔導師が悪で、おまえたちが善だとどう証明する?」
「ラシュディが虜にした天空の騎士を私たちが助けた。ほかにどんな事実が要るというんだ?」
「そうでスヨ、バンクロフトさん。あんまりフォーゲルさんを疑ってはいけまセンネ。彼は、ああ見えても気さくないい人なんですカラ」
「し、しかし」
「だったら、こんなところにいないで、フォーゲルに確認すればいい。あなたたちは彼に会えるのではないのか?」
「あなたも無茶を言いまスネェ。招集した時は大丈夫でも、今度もバンクロフトさんが安全とは限らないんでスヨ。いくらフォーゲルさんが稽古してあげてるといっても、バンクロフトさんはふつうの人間なんですカラネ」
「ここで繰り言を垂れ流しているよりも、その方がましだと言ってるんだ」
「ともかく、わたしたちはシグルド城へ急ぎまショウ。フォーゲルさんを解放すれば、すべてわかることでスネ。
バンクロフトさん、ワイバーンの用意をしてもらえませンカ?」
「この人数分はすぐには無理です。まさか、こんなに大勢でいらっしゃるとは思わなかったものですから。何日かかかってもよろしければ揃えてまいりますが」
「どうしまスカ、フェンリルさん、グランディーナさん? シグルド城まで歩くと5日はかかりまスネ。ここはワイバーンが揃うまで待ってもいいんじゃないでスカ?」
「私は反対だ。単に待っているのは退屈だ。シグルド城へは歩いていってもいい」
「私も彼女に賛成だわ。ワイバーンが揃うのに何日かかるの? それならば歩いていった方が速いかもしれないじゃない」
「わかりまシタ。だったら、シグルド城まで歩いていきまショウ。バンクロフトさん、グランディーナさんたちに食糧を持たせてあげてくだサイ。ここからカリシンピまでは2日かかりますが、そのあいだにある町は、少し外れたムパンダしかありませんカラネ」
「承知しました」
グランディーナたちがエンテペの町を発ったのは、闇竜の月6日のことになった。
フェンリルの案内で、彼女たちは街道から外れたムパンダの町には寄らず、途中で野宿してカリシンピという町を目指した。
彼女らがシグルドの分断という事実に直面するのはその途上でのことだ。確かにそれは、このような事態を引き起こしたフォーゲルを恨むのに値するものだったかもしれなかった。
出発の時も強い風が吹いていた。一行を見送ったシグルド騎士団によれば、シグルドではこうした風は年中のことで、伝え聞くところによれば、分断されて以来らしい。
「この島は周囲を柵で囲っていますが、落ちてしまえば命はありません。どうかお気をつけください」
その意味も、彼女らはすぐに理解した。
島が南北に分断されたシグルドは現在、大きく4つの島に分かれ、橋で繋いで行き来している。柵は、町にさえ囲いを作らぬ天空の島で、それぞれの島を囲うように建てられた物であった。補修の跡があちこちで見受けられるのは、風のために吹き飛ばされてしまうからなのかもしれない。
それにシグルドでは町にも壁があり、耕作地も含めてかなり広く囲われていた。
「シグルドの人たち、不便な思いをしていマス。もともと温暖な気候でしたが、島が分断されたのと、この風のためもあって、耕作地が少ないのデス。フォーゲルさんを責めたくなる気持ちもわかりまスネ」
「その気持ちがフォーゲル一人に向いていることがおかしいだろうと言っている。元を正せば、ディバインドラゴンがフォーゲルに負けたのが原因だろう。フォーゲルに呪いを与え、シグルドも分断したドラゴンを恨む気にならないのが不思議だ」
「ディバインドラゴンは天竜でスヨ。いまの時代にはすっかり見られなくなってしまったようですが、神にも等しいドラゴンをなぜ恨むのデス?」
「フォーゲルに負けたのに神とは笑わせる。神というのはもっと絶対的な力の持ち主だと思っていた。あなたたちもそうではないのか?」
「それは、あなたの力がそう言わせるのではないかしら? スコルハティと対等に戦える者などほとんどいないのよ。あなたならば、ディバインドラゴンに戦いを挑んだかもしれないわね」
「しない。そんな危険を冒すつもりはない」
「あなたがディバインドラゴンに負けるかもしれないという危険?」
グランディーナはフェンリルを睨みつけた。2人が足を止めたので皆も立ち止まる。
「馬鹿なことを。私にはディバインドラゴンと戦う理由がない」
「そうかしら? もしもユリマグアスの門番がディバインドラゴンだったなら、あなたには立派な理由があったことになるわね」
グランディーナは答えずに歩き出し、アイーシャが急いで追う。サラディンとランスロットもそれぞれ続いた。
「フェンリルさん、厳しいでスネ。グランディーナさんをそんなにいじめないであげてくださイヨ」
「何を言っているの。あなたが聞くべきことをちゃんと聞いておかないから私が聞いているんじゃない。スコルハティに後で聞こうと思っていたなんて、言い訳は受けつけませんからね」
「フェンリルさ〜ん。わたしだって彼女から話を聞こうと努力はしていたんでスヨ。でも、それには仲良くなるのがいちばんでスネ。それなのに、彼女はなかなか心を開いてくれないんデス。わたしも苦労したんでスヨ」
「よく言うわ。あなた、まさかフィラーハの前でも同じ申し開きをするつもり? 彼女が要注意人物であることを、忘れていたとは言わせないわ」
「それはもちろん、すぐに気づきましたけれど、追求すればいいというものではないでショウ? それとも、彼女を無理矢理、拘束すれば良かったと言うのでスカ?」
「確かに、それはあまり賢明な策ではないわね。でも、あなたの怠慢を否定するつもりもないわよ」
「いちばんいいのは、彼女の口から天空の島に渡ると言ってもらうことでスネ。あいにくと、わたしはうまくいったとは言い難いのですガ、フォーゲルさんのことはいい教訓になったと思いマス。彼女がおいたをすれば、いつでも天空の島にいるよう強制できると理解してもらうのニネ」
「どうかしら? そんなに単純な人だとは思えないけれど」
強風が先を行くグランディーナたちの髪や服を煽り続けていた。彼女たちは賢明にも、手をつないでいる。もうじき島と島とを結ぶ橋にたどり着くところだった。
「グランディーナ、なぜフェンリル殿に正直なことを言わなかったんだ?」
「言ってどうする? フィラーハの騎士が、そんな人間を見逃すとでも思っているのか?」
「それは言ってみなければわからないだろう?」
彼女はランスロットを凝視し、小さく息を吐く。
「天空の騎士があなたのような人柄ならば、言ってみる価値もあるだろうが、スコルハティと戦える私は、彼女らにとっては要注意人物だ。余計なことを言って、藪を突くのはごめんだ」
赤銅色の髪が翻り、グランディーナは鬱陶しそうに毛を丸めた。ランスロットも、シグルドに来てからマントがばさつくのがうるさかったので、いまは畳んで荷物の中だ。この分では、野宿をする時には相当、面倒なことになりそうだ、と彼は考えていた。
「一昨日、君が手の平に受けた傷も、そのことと関係があるのか?」
「間接的にはな。大した傷じゃない」
「わたしが案じているのはそんなことではないよ。わかっているだろう? わわっ! 何をするんだ?」
グランディーナが手を離したので、ランスロットはいきなり彼女の髪に巻き込まれた。払いのけるよりも速く彼女が離れたので難を逃れたが、毛の量が半端ではないもので、窒息するかと思ったほどだ。
「あなたに案じられて、私に嬉しいとでも言えというのか? その逆だ。やっぱりあなたを連れてこなければ良かった。ギルバルドなら、余計なことは言わないのに」
「それは期待に添えなくて悪かったね。だが、そうやってお気に入りの者ばかり傍に残すと、いまにとんでもないことになるぞ」
「私のことなど、いつまでも心配していないで、そろそろこの戦いが終わった後のことでも考えたらどうだ? 経験や年齢からいっても、あなたは国の要職に就く。ゼテギネアの再建は楽なものではないだろう」
「悪いが、この戦いが終わるまで、わたしの剣は君のものだ。わたしもあまり器用な方ではないのでね、一度に2つのことなど考えない方がいいんだ」
彼女は振り返り、少しだけ笑った。けれども、それきり黙ってしまい、後から追ってくるサラディンとアイーシャを待っている。
スルストとフェンリルはさらに後方だ。
「この風では天幕を張れそうにないな」
「そうだな。お二人に野宿するのにいい場所がないか、聞いてみたらどうだろう?」
「そうしよう」
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