Stage Thirteen「暗黒のガルフ」1

Stage Thirteen「暗黒のガルフ」

「人間たちよ、聖なる父の御名において命じます。地上にて行方不明になった天使長ユーシスを探し出し、暗黒のガルフを打ち倒しなさい!」
「天使長? そんなものが私たちと何の関係がある?」
高飛車な天使の物言いにグランディーナがいつもの調子で返した。しかし薄紫色の衣をまとったスローンズは、その人間離れした美貌にそぐわない威圧感さえ漂わせて、さらに高圧的な口調になった。
「あなたたち人間の戦いに巻き込まれて前の天使長ミザールは堕天したのですよ。聞けば地上の戦いはゼテギネア帝国と解放軍とやらが相争っているとか。ならばミザールの堕天した原因も、姉を追って地上に降りたユーシスが行方不明になったことも、あなたたち人間に責任の一端はありましょう」
「私たちの戦いと天使長の堕天には何の関係もない。ミザールが堕天したこともユーシスが行方不明になったことも初めて聞いた」
そこへ天空の三騎士たちが走ってきた。ここ天空の島で天使を見るのはこれが二度目だ。3人の急ぎ方からランスロットは、天使が現れるのは天空の島にあってもただならぬ事態なのだろうと推測した。
3人の天使のうち、後ろに控えた2人のエンジェルも天空の三騎士を認めて多少なりとも安堵したように見えるが、スローンズはそれほどでもなかった。
3人に話しかけたのは竜牙のフォーゲルだ。
「事情をお話しください、天使殿。あなた方が天空の島まで下りてくるのはよほどのこと、天界でどのようなことが起こっているのですか?」
それでスローンズも話し相手を三騎士に変えたようだ。グランディーナとランスロットのことは高みから見下すだけだったのに、三騎士相手となると地上近くまで下りてきて、まず一礼さえしたほどだ。その姿はあくまで優美であった。
「天使長ミザールが堕天しました。後を継いで天使長となったユーシスはミザールの妹ですが、フィラーハさまの許しもなく姉を追い、地上に降りて行方不明になってしまいました」
「ミザール殿ほどの方がなぜ堕天したのです?」
フォーゲルの声音に驚きが混じったように、スルストやフェンリルも顔色を変える。
「ミザールは聖なる父に仕えし身でありながら、人間の男に懸想しました。そのような天使は何もミザールが初めてではありませんでしたが、あろうことかミザールはその男にそそのかされて、天界に封印されていた魔石キャターズアイを持ち出したのです」
「キャターズアイ!」
3人は絶句したが、グランディーナがすかさず口を挟む。
「ならば、ミザールの相手の男とはラシュディというのだろう?」
スローンズは彼女を睨みつけた。彼女が当然、これを避けるはずもなく2人が黙って睨み合っていると、フォーゲルが先を話すよう促したのでスローンズは渋々といった表情で再開した。
「ミザールの相手を知っているとは、あなたたちにも責任があると認めたも同然ではありませんか。ですが、いまは天使長ユーシスの捜索と、暗黒のガルフを倒すことが最優先だというのがフィラーハさまの御意志です。ミザールを誑(たぶら)かした男には、いずれ天罰が下りましょう」
「グランディーナさん、あなたが言っていたのはこのことだったのですカ? ラシュディはまんまとキャターズアイをせしめましタ。それも気高き天使長さんを誑かす極悪なやり方でですネ」
「奴ならば利用できるものは何でも利用するだろう。まさか私も、天使長が奴に懸想するとは思わなかったがな」
「しかし、天使長が不在では天界も相当混乱しているはずです。まずはフィラーハの仰るとおりユーシス殿を見つけて天界に戻っていただかなければなりません」
「それだけではないのです、天空の三騎士さま。ミザールは天使長だった時にラシュディに祝福を与え、契約まで交わしてしまいました。ミザールの名においてラシュディが私たちを召喚すると、私たちは地上に降りなければならなくなるのです。それも人間たちの争いなどに荷担させられるためにです。フィラーハさまがミザールを堕天させたのは、その契約を無効にするためでもありましたが、すでに多くの天使が堕天してしまいました。私たち天使が人間の戦いに協力させられなければならないとは、屈辱も甚だしいことではありませんか」
「それでは暗黒のガルフを倒せとは、どのようなことですか? 奴は我々がアンタンジルの地に封印しました。まさか、その封印が解け、ガルフが逃げ出したのでしょうか?」
「いいえ。そのようなことになればガルフはまたたくさんの悪魔を連れて地上に攻め入ってくるでしょうが事態はそこまで悪くなっていません。ですが、ここ24年ばかり人間たちが封印の儀式を怠ったため、いまやアンタンジルへの侵入は容易となり逆に脱出してくる悪魔もいるほどです。このままではガルフの封印が解けるのも時間の問題でしょう。このことにおいても人間たちの責任は明白ではありませんか」
スローンズはそう言うと改めてグランディーナを睨みつけた。彼女も相変わらず睨み返す。そこに割って入ったのがフェンリルだ。
「ユーシス殿を捜すのを手伝ってもらえますね? 私たちだけでは地上を自由に動くことはできません。ブリュンヒルドのことも含めて、あなたたちの協力が必要です」
フォーゲルとスルストも頷いてみせた。
グランディーナはあまり気の進まなさそうな顔をしていたが天空の三騎士や天使たちをそれほど待たせることもしなかった。
「わかった。私たちはムスペルムに戻り、そこからガルビア半島に行く。それから天使長を探しに行こう。
あなたたちもともに来るのか?」
「当たり前です。私たちはあなたたちが天使長ユーシスを探し出し、暗黒のガルフを討ったという知らせをフィラーハさまに持ち帰らねばなりません」
「なるほど。だが天使長を探せと言われても、どこで行方不明になったのか教えてくれ。1人の天使を探すには地上は広すぎる」
「ユーシスは地上でアンタリア大地と呼ばれているところで所在が不明になりました」
「それは都合がいい。アンタンジルに行くには、アンタリア大地のカオスゲートを開くしかない」
「ミザールもそこにいるのか?」
「いいえ。ミザールはバルハラに行きました」
「バルハラか」
言ってからグランディーナは考え込むように沈黙したが、じきに顔を上げた。バルハラは旧ホーライ王国の王都だったところだが、先の大戦でラシュディが禁呪を使ったために永久凍土と化してしまった。彼女がいつ行くつもりなのかは知らなかったが、そのまま放置していくはずがないとランスロットは思っていたので、この機会に兵を向けるかどうかの胸算用もあるのだろう。
「フォーゲル、ワイバーンの準備はいいのか?」
「いつでもカオスゲートに行けよう」
「サラディンやアイーシャと合流して、ムスペルムに戻ろう」
それから、一同は5頭のワイバーンに分乗してシグルドのカオスゲートに向かい、そこからムスペルムに戻った。
ランスロットが後で聞いた話によると3つの天空の島のカオスゲートは天空の三騎士の愛剣によって開かれるようになっていて、それぞれの島で3人ずつの騎士団員が交替で詰めるように決められたということだ。
そして、ムスペルムに残った解放軍は最初にこの天空の島に現れた時のカオスゲートの近くで野営していたが、そこに近づくグランディーナたちを真っ先に見つけたのはカノープスであった。
「よぉ! 元気そうだな!」
彼はエレボスに乗って駆けつけ、まずランスロットに近づいた。
「君こそ変わりなくて何よりだ。こちらの様子はどうだ?」
「変わりねぇ! ファーレンがよく来るぐらいで帝国軍もいねぇし、みんな元気だぜ!」
そこにグランディーナがワイバーンを接近させる。
「これからの予定が変わった。話をしたいから皆を集めておいてくれ」
「承知!」
天空の三騎士たちは、それぞれ1人ずつ天使を同乗させている。シャングリラに行った時は真っ先に襲われた相手だ。彼女らを見ても何かただならぬことがあったのは想像できたのだろう。カノープスは即座にエレボスを反転させると野営地に戻っていった。
ワイバーンがいくら頑張ってもグリフォンの翼には及ばない。巨大な蝙蝠(こうもり)のようなその羽根は、ゆっくりと羽ばたくのには向いていても速度は出せないからだ。
5頭は野営地を目指し、グランディーナを先頭に次々と着地していった。
その時にはムスペルム騎士団長ファーレン=ホールンスヘルンも交えて解放軍も待機しており、皆は天空の三騎士に天使まで同行しているのを物珍しそうにも、警戒してそうにも眺めた。
サラディン、ランスロット、アイーシャが皆に合流する。半月ぶりの再会だが、あまり懐かしんでいる場合ではなさそうなことは誰もがわかっていた。
「半月もの待機、ご苦労だった。私たちはこれからガルビア半島に戻りアンタリア大地に向かう。そこで行方不明になったという天使長ユーシスを助けるためだ。アラムートの城塞への帰還は遅れる」
「なぜ、我々が天使長殿の捜索をしなければならないのですかな?」
ケビン=ワルドの発言は皆の気持ちを代弁するものだ。しかしグランディーナは淡々と答えた。
「アンタリア大地で24年前まで封印の儀式が行われていたことは、あなたたちのなかにも聞いた者もいよう。だが、ホーライ王国が滅亡して以来、儀式が行われなくなってしまい、封印の力が緩んでいる。アンタリア大地はアンタンジルという魔界に近いところにつながっており、そこには天空の三騎士がオウガバトルの時に封じた暗黒のガルフという魔界の将軍がいる。アンタリア大地の封印の儀式は三騎士の行ったガルフの封印を助けるものだ。天空の三騎士の力を借りるにあたって、暗黒のガルフの復活は見過ごせないそうだ。そのために先にアンタリア大地に行かなければならない。天使長の捜索はそのついでだ」
もはやオウガバトルぐらいでは皆も驚かなくなりつつあったが、暗黒のガルフの名に息を呑む者は少なくなかった。
暗黒のガルフはオウガバトル伝説に最も長く登場する魔界の将軍で、100万匹の悪魔を率いて人間たちを襲ったとも伝えられる。その戦力は魔界から次々に現われる悪魔たちのためになかなか衰えることはなく、天空の三騎士と十二使徒たちはガルフを封印するために死力を振り絞ったと言われていた。
ただ、それもあくまでも伝説の域であって、誰もが小さいころか聞いている魔界の将軍ガルフが、まさか実在しているとは思わなかったためだった。
「お待ちください。あなたは先ほど天使長の御名をユーシスさまと仰いましたが、ミザールさまの間違いではありませんか?」
マチルダ=エクスラインの疑問に司祭と僧侶たちが頷き合う。だがグランディーナは、これにも単なる連絡事項のように応じただけだ。
「ミザールは堕天したからだ。ラシュディに懸想し、魔石キャターズアイを盗み出した咎で天界を追われたそうだ。いまの天使長ユーシスはミザールの妹だ」
皆は驚き、その場はざわついたが、グランディーナはかまわずに話し続けた。
「3人の天使が私たちに同行する。天使長を助け、暗黒のガルフを倒すまでのお目付役だそうだ。それと天空の三騎士も合わせて紹介する」
彼女がその場を離れても、ざわつきはやまなかった。
「なぁ、天空の三騎士ってのはあっちの3人のことなんだろう? 1人、人外の奴がいねぇか? あれじゃ、まるでドラゴンだ」
「ああ、そうだ」
答えたランスロットは会ってからまだ4日しか経っていないというのに、すでに自分がフォーゲルの竜頭に違和感を覚えていないことに気づいた。見慣れたわけではないのだが、初めからフォーゲルはあのような頭だったから、そういうものだと受け入れてしまったのだろうか。
しかし、皆の感想はカノープスの方に近いようだ。半神というよりも悪魔の方がまだ納得できるのかもしれない。そういう反応はフォーゲルにとって日常茶飯事なのだろう。だが、それも含めて与えられた呪いだとしたら天竜とは過酷なものだとランスロットは感じる。しかもフォーゲルの場合はフェンリルがオルガナに流刑されたのとは違って、いつまでという期限がない。神の怒りを買うということの怖ろしさを彼は目の当たりにした思いだった。神が何千年もフォーゲルの呪いを解かないのも、見せしめの意味もあるのだろう。
それに、ほとんどの者はシャングリラで天使たちに襲われたことも忘れていない。彼女らに向けられるのも不信の眼差しの方が多かったが、その美貌は相変わらず高飛車で、こちらには視線ひとつ、よこさなかった。
「我々は天空の三騎士だ。縁あって、おぬしたちに助力することになった。地上に降りるのは数千年ぶりのことゆえ自由に動けぬが、よろしく頼む。彼らは赤炎のスルスト、氷のフェンリル、そしてわたしが竜牙のフォーゲルだ」
その言葉はよどみなく、ドラゴンの頭が発しているとは思われなかった。それにフォーゲルは解放軍のような反応には慣れているものとみえ、さらに3人の天使たちを指した。
「こちらの方たちはスローンズのエインセル殿、エンジェルのレーシー殿とメリサンド殿だ。すでに話は聞いたと思うが、天使長ユーシス殿の捜索と暗黒のガルフ討伐まで同行される」
皆は神妙な顔で頷いたが、天使たちは彼らには無関心な顔をしていて、その鼻も終始、上を向いたままであった。
「すぐに撤収できるか、ケビン?」
「半月もいましたので全部、片づけるにはそれなりにかかると思われます」
「この気候なら天幕がなくても問題はあるまい。いまから撤収しておけ。明日はすぐにガルビア半島に戻り、ゾルムスタインからアンタリア大地に渡る」
「承知いたした」
彼が改めて命じるまでもない。皆はグランディーナの言葉を聞いて、解散するとすぐに動き出していた。しかし、ムスペルムの常夏の気候に慣れた後では、たとえ通り過ぎるだけでも厳寒のガルビア半島に行くのはかなり面倒なことだった。しかもカオスゲートの付近はいちばん天気が悪いと来ている。こう暑いのに防寒具の心配をしなければならないので誰もがうんざりした顔だ。
グランディーナがそのまま天空の三騎士たちと話を続けたので、ランスロットたちは皆の片づけを手伝った。そこへカノープスが素早く近づく。
「竜牙のフォーゲルってことは、あの頭は自前なのか? 兜じゃなくて?」
「そうだ。大昔、ディバインドラゴンを倒した時に呪いを受けて竜頭になってしまったとのことだ」
「ディバインドラゴン! よく、そんなドラゴンを倒せるような奴を正気に戻せたな。さすがは半神ってところか。だけどグランディーナの傷は?」
「フェンリル殿はスルスト殿が正気に返すことができたが、フォーゲル殿との戦いでは、お二人の力だけでは足りず彼女も荷担せざるを得なかったんだ。その時に負ったものだ」
ランスロットが意識して皆から離れたので、2人の会話に耳を傾ける者はいなかった。
「あいつがフォーゲルとの戦いに荷担しただと?」
「そうだ。スコルハティとも戦ったんだ。彼女の力を考えたら不思議なことではないだろう?」
「それもそうだが、そいつはフォーゲルが強すぎたってことだな。だけどスルストだって、おまえとデボネアの2人がかりでもかなう相手じゃなかったじゃないか。それで、よくあんな傷で済んだもんだ」
そう言ってカノープスは一瞬、納得したような顔をしたが、また不審な眼差しをランスロットに向けた。
「俺はあいつとスコルハティの戦いを見ている。あいつが手を貸したっていうのはどの程度なんだ? 天空の騎士2人がかりでもかなわなかったフォーゲルにまさか1人で勝ったってことか?」
「そうだ。だがスコルハティに押さえ込まれたように今回も彼女の力は暴走しかけた。それを抑えようとして自分でつけた傷がほとんどだ。君だから言うが、天空の三騎士殿が一緒に来られるのはわたしたちを助けるためじゃない。今度、彼女の力が暴走した時に速攻で天界に連れていくためだ」
カノープスは言葉を失って息を呑んだ。しかしランスロットが1人で天幕をたたみ始めると、すかさず手を貸した。ランスロットは、下手をすれば解放軍自体が引っ繰り返りかねないような話を、よくも自分は淡々と話すものだと呆れていたがカノープスは多少興奮気味なようだった。
「彼女も言っていたが、天使長の捜索はその話の後でついてきた、おまけのようなものだ。わたしたちには回り道になるが天界の三騎士殿の本当の目的を隠すためには都合が良かっただろうな」
「サラディンやアイーシャも知ってるのか?」
「知っている。サラディン殿は、すでにある程度ご存じだったようだ。ただ、わたしはアイーシャには聞かせるべきではなかったと思う。そうでなくても母上を殺された傷痕もまだ癒えていないように思える。いくらグランディーナが気を許しているとはいえアイーシャには辛い話だったろう」
「俺はそうは思わねぇけどな」
カノープスが先に立って、2人は皆の方に戻り始めたが、そのなかにアイーシャを見つけ出すのはさほど難しいことではなかった。グランディーナのように特別、目立つわけでもないのに以前のように皆のなかに埋没してしまうことがなかったからだ。
「ガルビア半島の時も感心させられたが成長している。ミネアより、ずっと大人びて見えるぜ」
「大神官殿の娘だ。それだけでもいろいろと大変な立場だろうしな」
「そうは言うけど、おまえだっていろいろあったんじゃないのか? そんなに楽なはずがなかったろう」
「わたしは最後まで彼女に従うと決めたからな。それにオルガナでもシグルドでもただ、ついていっただけだ。大変なことはなかったさ。それよりスルスト殿と戦って以来、剣を振るっていない。久しぶりに手合わせしてくれないか?」
「俺はかまわねぇが、そんな暇があるのか?」
「暇は見つけてこそだ。わたしにはグランディーナのような力量も君のような長所もない。日々の修練を怠っていてはすぐになまってしまうからな」
「真面目だねぇ」
そう言ったカノープスが急に不敵な笑みを浮かべた。
「よし、決めた! 今晩は勝ち抜き戦やるぞ! おまえら、腕を磨いておけよ!」
「ええーっ?!」
その夜、さんざん汗をかいたカノープスが1人で草原に寝転んでいると、グランディーナとアラディが近づいてきた。
「俺はそろそろ寝る時間だぜ」
一応そう牽制したがグランディーナが意にも介さないことも承知の上での社交辞令だ。
「明日の話だ。あなたとユーリアはアラディたちと一緒にアンタリア大地へ先行してくれ」
「あの吹雪のなか、グリフォンを飛ばせっていうのか? 何だって、そんなに急ぐ必要があるんだよ?」
「私たちはこれからガルビア半島を南下してゾルムスタインへ向かう。アンタリア大地へはそこから船で3日、どんなに急いでもここから7日はかかる。だがグリフォンなら吹雪のなかを無理させても、その半分で着けるだろう。そのあいだにアンタリア大地の様子を探っておいてほしい」
「俺もユーリアもアンタリア大地なんか行ったこともねぇぜ。それともアラディに案内できるのか?」
端整な顔立ちの若者は黙って頷いた。
「彼に地理の説明はした。ガルビア半島を離れるまではグリフォンも手こずるだろうが雪がなくなれば速いはずだ。アンタリア大地に着いたらアラディの指示で一帯の調査をしてくれ。アンタリア大地にはゼテギネアで最大のダーイクンデイー湿原がある。グリフォンで飛び回った方が効率がいいし、あなたたちの目はアラディたちの助けとなるだろう」
「わかったよ。ユーリアに話はしたのか?」
「ギルバルドと明日の支度をしてもらっている。カオスゲートを抜けたら、すぐに発ってくれ」
「だけど今回はカリナもいねぇし俺たちが行くとグリフォンも有翼人も残らねぇぜ。大丈夫なのか?」
「ガルビア半島を移動中はプロミオスを先頭にする。その先は船だから、それほど心配していない。それよりもダーイクンデイー湿原の方が厄介だ。先に行ってくれ」
彼なりに懸念事項をあれこれと挙げてみたが、グランディーナもただ頼みには来ない。カノープスとしては話の最後を、こんな言葉で締めくくるよりなかった。
「しょうがねぇなぁ」
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