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バリュードメイン Stage Thirteen「暗黒のガルフ」3

Stage Thirteen「暗黒のガルフ」

闇竜の月22日、解放軍はアンタリア大地のバーミアンに到着した。船を下りた途端に町の方から生温くて湿っぽい風が吹きつけてきて押し包んだ。
ランスロットは鎧の下をすぐに汗が流れるのを感じ、この暑さがアンタリア大地全体なのか、バーミアンに特有のものか気になった。
皆もいままで通ってきたゼテギネアのほかの地では感じたことのない蒸し暑さに、嫌そうな顔をしていたり、興味深そうな顔だったりと様々な反応だ。バルモアも湿地が多く海抜0バームの土地ばかりで湿気は高かったはずだが、それでもこの暑さとは比べものにならなかった。大半がダーイクンデイー湿原で平らな土地の多い場所だけに見晴らしもいいだろうに、地平線に至るまでもなく遠景は霞んで、陽炎が立ち上っている有様だ。
ただこんな暑さも例によってグランディーナと天使だけは何も気にしてなさそうだった。
だが、彼らにその蒸し暑さを憂うあいだはなかった。バーミアンの港で一行を待ちかまえていたカノープスにより、恐るべき事態が知らされたからだ。
「アンデッドの群れが夜になると湿原の方から、ぞろぞろやってきやがるんだ。ケルーマンはもっとひどい。そのうち町の街壁だけじゃ守りきれなくなるかもしれねぇ」
「いつからそんなことになった?」
皆が驚きの声を上げるなか、グランディーナは冷静に話を進める。
「俺たちがアンタリア大地に着いた時にはもう、そうなっていた。聞いた話じゃ前から湿原にアンデッドが出ることはあったらしいんだが、ここ数年、その数が増えてきたってことだ。何でも南のカンダハルにオミクロンって奴が住み着いてかららしい。それがここ1ヶ月のあいだに急に増えたそうだ」
「オミクロンですと!」
ケビンが勢いよく立ち上がったので、カノープスも皆も思わず彼を見た。
「話の途中で失礼いたす。だが、オミクロンこそ、我がホーライ王国の裏切り者なのです。神官長という位にありながら死霊術に手を染めたばかりか、ラシュディに魂まで売り渡した罪は重罪なり! ぜひ先陣をお任せあれ、オミクロンめを我が槍の錆としてくれよう!」
「その話は後でしよう」
グランディーナの言葉にケビンは頷き、座り直した。その顔を盗み見る同じ小隊の者たちは自分たちが、そのオミクロンと戦わされるのかと案じて不安そうな表情を隠しもしない。
オミクロンの名にサラディンも頷いたので、その道ではそれなりに有名人らしい。
「続けてくれ、カノープス」
「町の守りはロシュフォル教会の司祭や僧侶たちが中心にやっているが、なにしろ戦力が足りねぇ。スケルトンなら門を閉めれば終わりだが、亡霊や悪霊となると町の中まで入ってこられるからな。それにバーミアンではそこまで酷くないんだが、ケルーマンではスケルトンが街壁をたたく音がうるさくて夜も眠れないって話だ。しょうがないからアラディとユーリアを偵察に行かせて俺たちはケルーマンで町の防衛を手伝っていたんだが、確かにあれは神経に障る音だ。スケルトンってのは鳴かないが骨を鳴らしやがる。そいつがかたかたかたかたって、夜通し聞こえてくる。街壁に近い奴はずっと壁をたたき続けているし、遠い奴らは骨を鳴らしているし、さすがの俺たちも神経がすり減ったぜ。町に侵入してくる亡霊は大した数じゃないが、あいつらには武器も効かないから司祭たちを守ってやるぐらいが仕事で、いちばん大変なのは、あの音だろうな。だけどアラディたちが戻ってきたから、おまえたちと合流しようと思ってバーミアンから戻ってきたところだったのさ」
「アラディ、カンダハルの様子はどうだったのか話してくれ」
素顔は端整な顔立ちの彼だが今日は変装しているらしく平々凡々な青年にしか見えなかった。グランディーナが彼を皆の前に出すのは珍しい。
「カンダハルは夜です。闇がカンダハル中を覆っていて、明けることがありません。町のなかはアンデッドであふれかえり、明るくなることもないので活発に動き回っています。カンダハルを離れるとふつうに時間が経つので、アンデッドたちはカンダハルの外が夜になるのを待って、こちらに向かってくるのです。カンダハルの中央に神殿があり、アンデッドはそこから出てくるようですが、このような事情のためにこれ以上、確かめることができませんでした。アンデッドたちは命令を受けているのかもしれませんが、その動きはでたらめで統率がとれているとは言いかねます。ですがアンデッドの行く先は大半がダーイクンデイー湿原です。あそこには底なし沼などもあって地理に不案内な者が歩くのは容易ではありませんが、アンデッドたちは沼にはまった別の屍を乗り越えるようにしてケルーマンやバーミアンにやってきています」
アラディの報告に皆が息を呑む。アンデッドの跋扈(ばっこ)する町は想像するだに恐ろしく身の毛のよだつような話であった。オミクロンの名を聞いていきり立っていたケビンでさえ、己の恐れを恥じるように石突きを地面に打ちつけた。
皆の反応など気にも止めない風にグランディーナが口を開く。自分の前に立ち塞がるのならアンデッドもただ倒すだけだと言いそうな態度だ。
「サラディン、四六時中、夜にするような物に心当たりはあるか?」
「おそらく〈闇の香り〉を使っているのだろう。あれは1つの町ぐらいの局地的な範囲にしか効果がない。その入手先もラシュディ殿からであろう」
「〈闇の香り〉の効果を絶つことはできないのか?」
「〈光のささやき〉を使うことだが、持ち合わせはないし、通常、手に入る物でもない」
「ジャックに訊いてみるか。たとえあったとしても数はなさそうだがな」
「待ってくれ。いかな死霊術師といえど無限にアンデッドを生み出すことはできない。オミクロン殿の力、何が源なのだ?」
サラディンの問いにグランディーナが肩をすくめてみせたのでアラディが答えた。
「カンダハルへの侵入がかなわなかったので、そこまでは調べられませんでした。ただ、ケルーマンで聞き込んだところではアンデッドが、これほど多く町まで来るようになったのは、ここ1ヶ月ばかりのことだそうです」
その言葉にサラディンは少し考え込んでから天使に話を向けた。
「エインセル殿、ユーシス殿が行方を絶ってから、どれぐらいになるのです?」
「地上の時間で2ヶ月足らずでしょう」
「つじつまは合うな」
サラディンは納得したようだが、ほかの者は不思議そうな顔だ。グランディーナでさえ日頃から魔法には疎いと言っているとおり、わからぬ風である。
「異国には己の魔力を他者に譲ることのできる魔法がある。その逆もまた可能なのかもしれない。天使と我らの魔力が同じものなのかはわからぬが可能性は否定してかかれないだろう」
「つまり、どういうことなのです? オミクロンという人間がアンデッドを生み出していることとユーシスが行方を絶ったことと、どう関係があるのです?」
エインセルが苛立ちを隠しもせずに訊ねた。皆が知りたいのも、そこのところだ。
「ユーシス殿の魔力がアンデッドを生み出すために使われているかもしれない、ということです」
「何ですって?! 天使長の力が、よりによって、そのようなおぞましいことに」
絶句して、ふらついた彼女をスルストが支える。
「あくまで、そういう可能性があると言っているに過ぎません。事実はカンダハルに行かねば確かめられないでしょう。カンダハルにオミクロン殿に協力する魔法使いがいるかもしれません。ただ町を包囲するほどのアンデッドの大軍を生み出すには普通の人間の持つ魔力は微々たるものだと考えられるのです」
「それが事実なら天使長にあるまじきことです! 私たちの力はフィラーハさまにいただいたもの、それを正しいことに使わなかったばかりか、アンデッドのような不浄の者を生み出すなんて! おぞましい、なぜフィラーハさまはユーシスも堕天させてしまわないのでしょう? 力を失えばアンデッドの生成などただちに止められましょうに!」
「エインセルさん、あなたがそんなに動揺しては、レーシーさんとメリサンドさんまで不安になってしまいマスネ。それに天使長に選ばれたユーシスさんが悪気があってしたはずないデスネ。堕天させろなんて物騒な話はおしまいにしまショウ。ユーシスさんはグランディーナさんたちが助けてくれマス。あなたたちはもう休みましョウ、ネ?」
エインセルは疑わしそうな眼差しをグランディーナに向けたが、スルストに逆らうこともしなかった。もっとも休むといっても野営地が設置されているわけではないので、皆より外れたところに行っただけだ。
スルストと天使たちがいなくなるのも待たずにグランディーナは話を再開した。
「アンデッドを絶つには、その源であるオミクロンを倒さねばなるまい。今回はケルーマンとバーミアンの守り、それにオミクロンを倒しに行く者と三手に分ける。
カノープス、あなたはこのままバーミアンの守りにつけ。ほかにガーディナー、ロベールの小隊がともに残る。
ギルバルド、デボネア、ラウニィー、ライアン、バーンズの小隊は明日の朝、ケルーマンに向かい、ロシュフォル教会の司祭たちに協力して町を守れ。
アラディたちもケルーマンに行け。
私とサラディン、ランスロット、アイーシャ、それにケビンとマチルダの小隊はグリフォンに分乗してカンダハルに向かい、オミクロンを討つ」
皆が頷きかけるのを尻目にカノープスが口を挟む。
「どうして俺がバーミアンに残らなくちゃいけないんだよ? 置いていくならメンドーサだってドレファスだっていいだろうが?
なっ? おまえら、どっちか、替わってくれよ」
「あなたはケルーマンで町の防衛をしていたのだろう、少し休め」
「だからって、オルガナに続いて、また留守番って話はねぇだろう。
おい、どっちが替わってくれるんだ?」
名指しされたメンドーサ=ハリスとドレファス=ウェーバーはカノープスの申し出に顔を見合わせていたが、大して相談することもなくドレファスの方が手を挙げた。
「それでは、わたしと交代しましょう」
「決まりだな」
「わたしもカンダハル行きに同行させてもらおう」
いままで黙っていたフォーゲルが口を開いたので、皆は彼を注視した。天空の三騎士はほとんど天使たちと一緒なので彼の竜頭にはいまだに見慣れないと感じる者が少なくなかった。
「ユーシス殿の安全を確認するために我らのうち1人は同行すべきだ。それに南西の島にカオスゲートがあるから案内しておこう。かまわぬだろうな?」
「カオスゲートのことはありがたい。ならば、あなたには私とエレボスに乗ってもらおう。
フェンリルたちはバーミアンで待っていてくれ」
「その方が良いでしょうね。いくらフィラーハの命とはいえ、天使の方たちはあまり地上を歩きたがらないでしょう。
フォーゲル、ユーシス殿のことをお願いしますね」
「うむ。サラディンの言ったとおりのことになっていたら、たとえユーシス殿の咎ではないとはいえ天使には酷なことだ。一刻も早くユーシス殿を解放しなければな」
「ならば、マチルダ、あなたの小隊がケルーマンに行ってくれ。カンダハルには私とサラディン、ランスロット、カノープス、アイーシャ、フォーゲル、それにケビンの小隊で行こう。
ブリッド、あなたはケルーマンに行け」
「わかりました」
ケビンの指揮下にあったブリッド=ギベールが少し安心した様子で頷いた。
「ガーディナー、あなたがバーミアンに残って、指揮を執ってくれ」
「承知しました」
「発つ前にここのロシュフォル教会に行こう。
バーンズ、ロベール、あなたたちも一緒に来てくれ」
「はい」
そこでグランディーナが促したので、ガーディナー=フルプフ、バーンズ=タウンゼント、ロベール=クリスタロスが立った。
「カンダハルにはいつ発つのだ?」
「ロシュフォル教会から戻ってきてから行こう。グリフォンなら今日のうちに西の島に着けると思う。
ユーリア、支度を手伝ってくれ」
「わかったわ」
「西の島に何かあるのか?」
「このまま南下してケルーマンに向かっても、その先のダーイクンデイー湿原で休むこともできないし、いくらグリフォンでも1日で越えられるところでもない。アンデッドが湿原にいるから、それを避けて西の海づたいにカンダハルに向かう」
特に何も言われていないが、ギルバルド、デボネア、ラウニィー、ライアン、マチルダも明日の朝には発てるよう、準備を整えにかかったし、ユーリアが手伝ってサラディンたちも支度を始めた。
バーミアンの町にロシュフォル教会は1ヶ所しかなく、建物も小さかった。そこにいる司祭は1人きりで、ほかに僧侶が2人いるだけだ。グランディーナたちが商店に寄ってからロシュフォル教会を訪れた時、出迎えたのは司祭のディオンヌ=クーパーという女性だったが、顔には心労がにじんでいた。
「疲れているところをすまない。私たちはゼテギネア帝国と戦う解放軍の者だ」
「それはわざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。あなた方のことは大神官のフォーリスさまから、お手伝いするよう言われておりますわ。ですが、すでにお耳に入っていらっしゃるかもしれませんけれど、いまのアンタリア大地ではアンデッドが大量に発生してしまって、私たちはそちらに手を取られ、思うように動けません。このバーミアンはアンデッドの棲息しているダーイクンデイー湿原から離れているので大した被害は出ていませんが、湿原に近いケルーマンの町では大変なことになっているらしく、私たちの教会からも2人、助けに行かせているのです。本来ならば、私たちがお助けしなければならないところを、このようなお願いをするのは心苦しいのですが、町を守るため、あなた方のお力を貸していただけないでしょうか?」
「私たちはそのために来た。紹介しておこう。彼らがこのバーミアンを守るため、あなたたちを助ける。左からガーディナー=フルプフ、バーンズ=タウンゼント、ロベール=クリスタロスだ。彼らの下に司祭か僧侶を1人ずつつけた」
「それはありがとうございます」
ディオンヌが腰を折って挨拶をしたので、ガーディナーたちも返した。
「明日、ケルーマンの方にも小隊を5つ向かわせる。それと別働隊を組んで、カンダハルにも行く。事の元凶であるオミクロンを倒せば、この事態もいずれ収束するだろう」
「オミクロンとはホーライ王国最後の神官長となった人ですか?」
「そうだ。神官長を追われてラシュディに拾われ、いまはゼテギネア帝国に与している」
ディオンヌはマチルダよりも年上で、ホーライ王国のことも覚えていそうな世代だ。オミクロンの名に唇をかみしめたところは、ケビンのように表に出すことはないにしても、彼に対して覚える静かな怒りをこらえているかのようだった。
「ケルーマンのことも重ねてお礼を申し上げます。ですが、私たちも町の方たちも戦いに慣れていません。自警団はありますが、差し支えなければ、あなた方が指揮を執ってくださるとありがたいのですが、お願いできないでしょうか?」
「あいにくだが、私たちはアンデッドが完全にいなくなるまでアンタリア大地に残るわけにはいかない。それにアンデッドの問題はアンタリア大地には以前からあったはず、あなたたちに戦う気があるのなら、その手助けはしよう」
「それは私の一存で決められることではありません。町の皆さんにも訊いてみなければなりません」
「私もいますぐ返事をしろとは言わない。オミクロンを倒すまでは彼らに指揮を任せてもいいが、そのままでは私たちがいなくなってから、あなたたちが困るだろう」
「わかりました」
「あと1つ教えてくれ。ケルーマンのロシュフォル教会の責任者は誰だ?」
「司祭のテイシア=トマスさんです」
「ありがとう。
ガーディナー、後はあなたたちに任せる。だが彼女に言ったとおり、私たちがいなくなった後のことも考えて動け。私たちはアンタリア大地にかまけているわけにはいかない」
「了解しました。ひとまず町長と自警団に会って、それからどうするか決めた方がいいでしょう。それと拠点をロシュフォル教会に移した方がよさそうだ」
それで彼女らはともに戻り、ガーディナーたち3つの小隊の者たちはすぐにロシュフォル教会に向かった。
「ギルバルド、支度は済んだか?」
「だいたい終わりました。今日のところは宿に泊まるしかないようですかな? 天空の騎士と天使の方たちにも泊まってもらうしかなさそうだ」
「そうだな。それと、ケルーマンのロシュフォル教会の責任者はテイシア=トマスという司祭だ。リーダーを連れて挨拶に行ってもらいたいが、こちらが協力できるのはオミクロンを倒すまでだと断れ」
「それでは町の人たちが困ってしまうわ。解放軍としても放っておいていい話ではないのではないの?」
ラウニィーが口を挟んだ。
「私たちの目的はゼテギネア帝国を倒すことだ。こんな辺境の地に戦力を割く余裕はない。ただし町の者に自衛手段は教える。オミクロンが元凶なら、いずれ、このような事態も収まるだろう」
「バーミアン側では何と答えたのです?」
「ディオンヌは町の者と相談させろと言っていた。返事は私たちが戻ってくるまででもいいが、ケルーマンではそんな余裕はないかもしれないな」
「承知しました」
ギルバルドは頷いたが、デボネアも口を挟む。
「本当に君たちだけで大丈夫か? わたしもオミクロンには一、二度しか会ったことはないが、かなり強力な魔法の使い手だぞ」
「大勢で行っても攻められれば同じことだ。それよりも小回りのきく人数で行った方が速い」
「アンデッドもいるんだ。フォーゲル殿と聖剣があるとはいえ、気をつけて行ってくれ」
グランディーナは片手を上げて、待機していたエレボスに乗り込んだ。
そこへ4頭立ての馬車が走ってきて、エレボスの隣で急停車した。
「グランディーナ!」
馬車から降りてきたのはフリル付きのブラウスを身につけた〈何でも屋〉のジャックだった。呼ばれて振り返った彼女はすぐにエレボスを下りた。
「彼と話したいことがあるので出発を遅らせる。待っていてくれ」
彼女はジャックを押し込めるように馬車に乗せると、自分もその後から乗り込んだ。
「それでは我々も宿に移動するとしよう」
ギルバルドが声をかけ、ケルーマンに行くことになった小隊の者たちは移動を始めた。デボネアとラウニィーに続いてマチルダの小隊が行き、最後尾はライアンだった。
「宿に泊まるなんて言ってるが、こんなドラゴンなんか泊まらせてもらえるのかねぇ?」
「まぁ、行ってみろ。半神や天使だって一緒なんだ、ドラゴンだって断られねぇかもしれないぜ?」
とカノープス。
「ちぇっ、あんたは呑気でいいぜ」
「何言ってんだ、こっちは野宿なんだぞ。頑張れよ!」
手を振って応えたライアンは、口で言うほどには心配していなさそうな顔であった。
「そんなに簡単にいくだろうか?」
「アンデッドが来てんのにドラゴンだけ町の外に放り出すわけにはいかねぇんだ。何とかごまかしてでも泊めねぇとな。そういう交渉ならユーリアが得意だぜ?」
カノープスの妹贔屓はいまに始まったことではないが、日頃からランスロットも頷くところがあったので、この問題は心配しないことにした。
「それよりジャックとの話は長いのかな?」
「いや、終わったみたいだ」
話していると、グランディーナが馬車を降りてきた。
すぐに追いかけたジャックが彼女の手を取って口づけをする。スルストがやたらと彼女にくっつきたがるのはフェンリルが加わって以来、かなりなりをひそめていたが、ジャックのそれもいい勝負だ。もっともどちらの男性についてもグランディーナはまるで気にかけているようではない。
「ありがとう。2つでも手に入れられて助かった」
「とんでもありません。お話を聞いた限りでは、それだけで用が足りるとはとても思えませんよ。もう少しお時間をいただければ、もっとかき集めてくるんですがねぇ」
「それを待っている時間が惜しい。2つで何とかするしかないな。ありがとう、ジャック」
「くれぐれもお気をつけて!」
「出発するぞ」
彼女がエレボスに乗り込むと、その後ろにフォーゲルが乗った。ほかの者も2人ずつグリフォンに分乗する。サラディンとケビン、ランスロットとサンダース=シルバ、カノープスとチャールス=グレート、アイーシャとレイカ=ユージンという組み合わせになって、5頭のグリフォンはエレボスを先頭に飛び立ち、南の方へ向かっていった。
〈何でも屋〉もそれをいつまでも見送っておらず、さっさと馬車に乗り込むと、いずこともなく消えたのだった。
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