Stage Fourteen「砂塵の果て」3

Stage Fourteen「砂塵の果て」

一方、グランディーナが連行されたのは牢獄ではなく、両手両足を縛られ、砦の最上階に運び込まれた。
彼女を連れ込んだ者が去って、ただ1人残った背の高い痩せた男をグランディーナは睨みつけた。
「あなたがプロキオンか?」
男は応えず薄笑いを浮かべるのみだ。その髪も肌も色素が薄く、淡い光のなかでは白くさえ見えた。
「そうだと言ったら、どうする? さすがのおまえも、その状態では何もできまい」
「そうでもないさ!」
実は彼女の手は、この部屋に入った時には自由になっていた。無警戒に近づいてきたプロキオンの喉笛に手刀が狙い過たず突き刺さる。
さらにグランディーナは心臓、股間にも強烈な一撃を叩き込んだ。
3ヶ所もの急所を立て続けに攻められ、さしものプロキオンも悶絶した。暗殺者の長とはいえ立っていることもできず、彼女の足下に倒れてしまった。
グランディーナは素早く足の縄を外し、そのまま、それをプロキオンの首に巻きつけると思い切り左右に引っ張った。
やがて手の中のそれが肉塊に変わったのを確認すると、彼女は室内を物色し、暗殺者の好む細身の剣を見つけ出した。
それでプロキオンの首を切り離していると扉が開き、1人の若者が現れた。
「アラディ、ではないな」
「もう殺してしまったのですか?」
「ぐずぐずしていたら、私の縄が切れかかっていることをプロキオンに気取られたかもしれないからな。切れ目を入れたのは、あなただろう? いまになって彼の命が心配になったわけでもあるまい」
「そんなつもりはありませんが、わたしたちも彼には一太刀浴びせたかったのですよ」
「わたしたち?」
彼の後ろから現れたのは同じ暗殺団の者らしかったが、最後にランスロットとスルストがいた。
「グランディーナさん、何て格好でスカ!」
「しょうがないだろう、ほかに武器がなかったんだから」
話しながらも彼女が手を休めることはなく、とうとうプロキオンの首を切り離した。
「グランディーナ、わたしたちが入れられていたのと同じ牢にアラディが囚われていた。動かすと危険なので鎖から外してきただけだが話しかけても反応しないんだ。もう事切れてしまったのかもしれない」
「案内してくれ。
そら、好きに使え」
彼女が放り投げた首は最初に現れた若者に受け止められた。その顔は驚くほどアラディにそっくりだったが、彼は首を隣の男に押しつけた。
「わたしも、ご一緒させてください」
「好きにしろ」
「カニス! おまえも一緒に来たらいい」
「遠慮しましょう。わたしは、このまま解放軍とともに行きます」
グランディーナは振り返ったが、カニスに来るなとは言わず、そのままランスロットの後を追ってスルストとともに砦の地下へ下りていった。
後に残された者たちは改めてプロキオンの首を眺めた。その表情は彼が苦しんで殺されたことを暗示している。
「我々もカニスのように解放軍についた方が良いのではないか?」
「あの娘が国を興すのなら、その方がいいだろうが、あいにくと彼女はトリスタン皇子の即位を妨げる気はないらしい。ついたところで益はあるまい」
「ところでカニスはプロキオンのお気に入りではないか。奴が、なぜ主人を裏切る必要があるのだ?」
「カニスは元々、我らと同じコンシュ派なのだ。このような事態に備えてプロキオンの側に潜入していたが、その存在はリーダーのわたししか知らないようになっていた。さぁ、このまま砦を制圧するぞ。プロキオンを倒したいまが絶好の機会なのだからな」
そうしてリゲルを初めとするコンシュ派の者たちがラシュトの砦を制圧する間、グランディーナたちはアラディの最期に立ち会っていた。
「アラディ」
彼女が呼びかけると、いままでランスロットの呼び声には、まったく反応しなくなっていた彼の身体が微かに身じろいだ。
「グラン、ディー、ナさま。ご無事、だった、ので、すか?」
「私は大丈夫だ。プロキオンも倒した」
「わたしは、ここで、終わ、りの、よう、です。最後まで、ご一緒で、きず、申し訳、あり、ません」
「帝国を倒すためならば1人になってでも行く。途中で離脱する者は置いていくだけだ」
返したアラディの声がかすれ、ひどく聞き取りにくくなっていたのでグランディーナは耳を近づけた。
「わかった。約束する」
歪んだ顔で彼は最後に微笑んだようだった。その眼をグランディーナは閉じてやり、立ち上がった。
「アラディは、あなたがいたために、すぐに正体が知られてしまったのだな?」
「そうです。お互いにいることなど知りもしませんでしたが、会った瞬間に鏡を見ているようだと思いました。ですが彼に警告する時間もなかった」
「それで私たちと一緒に来ると言ったのは何のつもりだ?」
その間にランスロットは、プロキオンの部屋からくすねてきた毛布でアラディを包んだ。
「あなたには彼の代わりが必要だ。わたしにも務まると思いますよ」
「影になるのならリゲルたちと別れる理由はあるまい。私よりトリスタンを選んだ方が後で役に立つ」
「そう単純にも行かないのです。わたしがコンシュ派だったことを知っているのはリゲルだけです。表面上、わたしはプロキオンのお気に入りだ。彼を支持してきた者には裏切り者としか見えないでしょう」
「つまり、あなたはアラディの代わりとしてではなく彼になりすましたいのか?」
「そこが、いちばん安全なようですからね。幸いアラディが死んだことを知っているのはリゲルだけです。彼ならば、わたしがアラディになりすましたいという理由も理解してもらえるでしょう」
グランディーナは、それほど考え込まなかった。
「いいだろう。アラディを殺されて困っているのも事実だ。それで、あなたの名は?」
「カニス以外にありませんが」
「それは仔犬という意味の言葉だ。名前ではない」
「ありません。わたしは、ずっとカニスとしか呼ばれてこなかったのです、名前どおりの存在として。それに、これからはアラディになるのですから、名など不要だとは思いませんか?」
「ならばアラディの遺言だ。表面上はアラディでもいいだろう、皆が混乱しなくて済む。だが、これからはミルディンと名乗れ。彼がアラディとしての仕事が終わったら名乗るはずだった名前だそうだ。あなたがカニスと呼ばれているのは嫌だったらしい」
「そんなこと、彼には関係ないじゃないですか」
「彼の遺言だ、無碍にするわけにもいくまい」
「そんなこと言って、あなたに何がわかるっていうんだ?! 僕が、わたしが、どんな目に遭ったのかも知らないくせに!」
「あなたの言うとおり私は何も知らない、彼も、誰もかれもだ。だが解放軍に来るのならアラディの遺志を尊重する。それでも良ければ来るがいい」
「ああああっ!!」
カニス、いまはミルディンは頭を石壁にぶつけた。二度、三度と、それは続き、彼は自分の頭を潰してしまいそうだったが、グランディーナは素知らぬ顔でランスロットとスルストに言った。
「武器を取り返して我々も外に出よう」
「アラディは、どうする?」
「ここで埋めていこう。サラディンたちが来ていても彼を担いでグリフォンに乗るわけにもいくまい」
「いい加減、あなたも着替えてくださイネ」
「わかってる。2人とも先に行っていてくれ」
「女性の着替えを見るものではありませんかラネ」
階上に出ると全ては片づいたようだったが、こんな早朝とは思えないほど賑やかだった。けれど指揮を執るリゲルの足下には、いくつもの亡骸が転がっていて、プロキオンに替わる指導者を拒絶した者たちの末路だと思われた。
外は明るくなってきており、ランスロットには昨晩、歩いた道筋がやっと判明した。丘は岩石状で墓穴は掘れそうにない。砂漠の方に戻り、暗殺者たちと同様、砂に埋めるしかなさそうだ。
「ランスロット!」
呼ばれて顔を上げると、サラディンとカノープスが降下してくるところだった。
「誰だ、それは?」
「アラディだ。ここで埋葬するようグランディーナが言うのでね」
「あれは何をしている?」
「下りてきたぜ」
彼が振り返ると、彼女は1人きりだった。
「何だか俺たちの出番はなかったみたいだな」
「グリフォンは、すぐに君たちを見つけなかったのか?」
「見つけたさ。だけど夜になると、さすがの俺の視力も落ちるからな。灯りもないんじゃなおさらさ。何かあるとは思ったが下手に近づいてナスルに気取られるわけにもいかねぇし、結局、動けなかったんだ」
「彼が、あんなに早く砦へ行くと言い出すとは思わなかったからな。最初から私たちをコンシュ派もろとも罠に嵌めるつもりだったのだろう」
「じゃあ、奴はおまえの予想どおりに裏切り者だったのか?」
「そうだ。私はコンシュ派と連携するつもりでアラディをホルモズッサに行かせた。彼が早々に捕まったとしても解放軍の名も出さずにいたはずがない。それなのにナスルはアラディの名を口に出しもしなかった。だから疑わしいと思った」
「そのためにアラディを失ってしまったのか」
「彼の死は、そのせいだけでもないんだが、ちょっと待ってくれ」
リゲルが下りてきたのでグランディーナだけが出迎えた。
遺体を埋めることに、それほど手間取るわけでもなかったから、ランスロットたちは朝食を執った。
「それにしても状況がよく見えねぇ。結局、何がどうなったんだ?」
「わたしも捕まってからは助けられるまで何もできなかったからな。解放されても彼女がとうにプロキオンを倒した後だし、そこの事情も知らないままだ」
「助けられたって誰に? あいつにか?」
「彼じゃない。アラディにそっくりな者がいて、我々を助けてくれたんだ。おそらくグランディーナがプロキオンを倒したことにも一役買っているだろう」
「そいつは暗殺団だから、あいつと一緒なのか?」
「そうではない。彼は解放軍に来たがっていたんだが、いろいろあるようでね。グランディーナは、どうするかな?」
「おい、また誰か来たぞ」
そう言ってカノープスは目の上に手を置いたが、それきり絶句した。それでランスロットは誰が来たのか察しがついた。
彼はグランディーナと話し終えたリゲルには目もくれず真っ直ぐに、こちらに向かってきた。その額には無造作に包帯が巻かれ、薄茶色の髪には、まだ血もこびりついていた。
「アラディの遺志を受け入れるのかい?」
「暗殺団に残るよりは、ましでしょう」
「君を歓迎するよ、ミルディン」
「ありがとうございます」
そう言って彼はサラディンやカノープスとも握手を交わしたが、笑みを浮かべることはなかった。
その後からグランディーナも下りてきた。
「話は終わったのか?」
「リゲルたちはトリスタンに会いたがっているからアッシュに会うように言っておいた。私たちは予定どおりアリアバードへ行こう。私はミルディンに話すことがあるから同じグリフォンに乗る。あとは適当に乗ってくれ」
「了解。これはおまえの分!」
グランディーナに携行食糧を投げて、カノープスはランスロットの手をつかんだ。
「その様子じゃ徹夜だろう? グリフォンは俺が操ってやるから、おまえは休め」
「君たちだって徹夜だったんじゃないのか?」
「おまえたちみたいにつながれたわけではないからな。それに疲れたら遠慮なくたたき起こして交替してもらうよ」
「わかったよ。ありがとう」
黒竜の月10日、アッシュに率いられた解放軍本隊は、それほどの抵抗も受けずにホルモズッサを解放した。カーンガーン、コンシュの戦いで帝国軍は四散し、暗殺団の主力はラシュトの砦にとどまっていたので、ホルモズッサには旧オファイス王国の民しか残っていなかったのだ。
アッシュは皆に、グランディーナたち別働隊とトリスタン皇子が率いる後続が合流するまで待機を命じ、解放軍はいつものようにホルモズッサの郊外に野営地を設置した。見張りも二人一組で、四組が三交替というのも変えぬまま、夜を迎えた。
「何者だ?」
「お初にお目にかかります、ゼノビア王国騎士団長アッシュ=クラウゼン殿。わたしはリゲル=カナベ、オファイス王国暗殺団の新しい長です」
「暗殺団が何の用だ?」
「ゼノビア王国のトリスタン皇子にお目通りを願いたく参りました。オファイス王を弑(しい)したプロキオンは解放軍のリーダーに討たれました。我ら暗殺団は今後、トリスタン皇子に忠誠を誓う所存です」
「本気で、そのようなことをぬかすか?」
アッシュは立ち、剣をリゲルに突きつけた。
「貴様ら暗殺団が殿下に忠誠を誓うだと? 笑わせるな、その舌の根も乾かぬうちに殿下の首を狙うつもりだろう!」
「そんなことをして何になります? ゼテギネア帝国の没落は目前に迫っています。我々はプロキオンのように帝国と運命をともにする気はありません」
「だから殿下に取り入ろうという魂胆か」
「取り入ろうなどとは思ってもいません。だが我らのような存在は必要とされるはず、騎士団長とはいえ、貴公の独断で判断して良いのですか?」
「残念だが、いまのわしは解放軍の一戦士に過ぎん。騎士団長としてではなく、殿下にお仕えする家臣の1人として、おまえのような輩を近づけることを危惧するのだ」
「ならば我々のような存在の必要性もわかるはず、きれい事だけで国は治められますまい?」
「むっ」
「確かに我らの生業は褒められたものではありますまい。だが王たる者が国の暗部に目をつぶっていてよろしいのでしょうか?」
「黙れっ!」
アッシュは剣を引いたが、そのままリゲルに振り下ろした。しかし暗殺団の長が身じろぎもしないことを知り、寸前で手を止めた。
「なぜ避けぬ?」
「トリスタン皇子にお会いしたければ貴公に会えとグランディーナ殿に言われました。ここで逃げては意味がありません」
「なぜ解放軍のリーダーが、そのようなことを?」
「理由は存じません。ですがトリスタン皇子の信頼を得るには貴公からの信頼を得なければ駄目だと言われたのです。だから、こうして会いに来ました」
アッシュは剣を引き、しばし考え込んだ。リゲルは、そんな彼を見つめ、同じ姿勢で答えを待っている。
「良かろう。殿下は数日のうちにホルモズッサにおいでになる。その時に、おぬしを引き合わせよう。それまで、ここにとどまるがよい」
「かたじけありません、アッシュ殿」
黒竜の月12日、ギルバルドに率いられた後続部隊とともにトリスタン皇子がホルモズッサに到着した時、約束どおりアッシュはリゲルを紹介した。
こうして旧ゼノビア王国の遺児フィクス=トリシュトラム=ゼノビアは独自の影を労せずして手に入れた。そのことが解放軍に波紋をもたらすのは、もう少し先のことである。
同じころ、アリアバードに着いたグランディーナたちは、スルストの仲介で十二使徒の末裔と言われる白き魔導師ギゾルフィに会った。いつものようにランスロットとカノープス、それにミルディンは留守番で、おかげでランスロットも知らなかったプロキオンを倒したくだりを聞くことができた。
「結局、あいつ1人で片づけたのか。しかも首まで落とすとは恐ろしい女だぜ」
「だが、それがあったので砦の制圧もたやすかったのだろう。プロキオンの死体を抱えて歩くわけにはいかないからね」
「それも一理あるとは思うがな。
それにしても長いな。マンゴーの時みたいに会って終わりじゃねぇのか?」
「いや、ポルトラノ殿の時はともかく、ババロア殿もマンゴー殿も、そんなに簡単に終わったわけではないよ。スルスト殿だっていろいろと話すこともあるだろうし」
「だって石をもらうだけなんだろう? なんでそう賢者ってやつは、もったいつけたがるのかねぇ」
「まぁ、待とう。ホルモズッサには、すぐ戻れるさ」
「だといいんだがな」
「ギゾルフィさん、あなたもご存じだと思いますけど解放軍のグランディーナさんとサラディンさんを紹介しまス」
「あいにくとスルストさま、わたしは地上に下りて以来、世の流れとは無縁に生きてまいりました。世俗の支配者が誰になろうと我が使命には関わり合いのないこと、すべては夢幻のごとく、わたしの周囲を流れていくのみです」
「ではポルトラノさんがゼテギネア帝国に殺されたことも知らないんですカ?」
「さすがに、それは存じております。ですが我らは大切な使命を帯びて地上に下りた身、あのような些事に囚われるとは愚行にございましょう。フィラーハさまに申し訳が立ちません」
「あなたはポルトラノが殺されたことを愚行だと誹(そし)り、何百人もの民が殺されたことを些事だと言い張るのか?」
「そうです。そのために我らの帯びた使命が果たせなくなってしまっては何のために地上に下りたのか、わかりません。彼は、あのようなことに関わるべきではなかったのです」
「目の前で無辜の民が殺されても、あなたなら何もしないと言うのか?」
「そのとおりです。寿命こそ過分に授かりましたが、我らとて強大な力を持っているわけではありません。我らがフィラーハさまより大事な使命を授かった身であれば、なおのこと命を落とすような真似は慎むべきです。我らが倒れれば使命は失敗し、フィラーハさまの御意志を果たせなくなってしまうのですから」
「だがポルトラノは私と会い、使命を果たした。そうは思わないか?」
「フィラーハさまが温情をくださったに過ぎません。使命を果たすためにフィラーハさまが仮初の命を与えてくださったのです。だが、あなたは勘違いされているようですね。わたしたちはあなたに秘石をお渡しするのが使命です。もっと端的に申し上げれば、誰であろうとポルトラノからクイックシルバーを手に入れられれば我々はその方に秘石を渡します。あなたも含めて、秘石を集めた方が相応しいかどうかはフィラーハさまが判断されることなのです。
さあ、これ以上、話していても埒(らち)があきません。ババロア、ポルトラノ、マンゴーから預かったという秘石を、わたしに見せてください」
言われてサラディンが2つの宝石を並べる。ババロアから預かった藍玉、マンゴーから預かった緑玉石だ。
「ポルトラノ殿から秘石はお預かりしていない。いただいたのは、これだ」
そう言って彼は宝石の横に拳大の紋章を置いた。
「なるほど、スルスト殿の仰るように石は本物のようです。ならば、わたしの使命もこれで終わったことになります。あなた方には明の秘石ジェムオブドーンを渡しましょう」
そう言ってギゾルフィは大きな紅玉を取り出した。サラディンは、これほど完全な球体を見たことがなかった。
しかしグランディーナは、さっさと立ち上がった。
「わたしはこれで消えますが、あなたは天空の島へ来るべきだ。その力を振るう相手を間違えてはなりません」
「余計なお世話だ。私は地上で生きていく。神だろうが十二使徒の末裔だろうが、あれこれ指図されるのは真っ平だ」
「フィラーハさまは世界を見通しておられるのです。その上で、どこに誰がいれば調和がとれるのか考えておいでだ。我々はフィラーハさまの御力の下、世界の調和を保つ努力をしていかなければなりません。力のある者には果たすべき義務があります」
けれども彼女は黙って背を向け、サラディンも取りなしをせずに従った。
「大いなる神フィラーハよ、愚かなる我ら人間に救いを与えたまえ」
ギゾルフィの言葉が彼女たちの後ろで消えていった。
こうしてダルムード砂漠での戦いは終わった。ホルモズッサに集合した解放軍は次の目的地ライの海へ進む。そこを支配するのはハイドリッヒ=ランドルス枢機卿、金の力で帝国教会の地位を買った男である。
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