狂貴
ルシアンは、再び霧都への道を
歩くのでありました
しかし果たして
誰が想像したでしょう
あの彼が、デュレンと共に
志を同じくして歩むなどと
…この様を妹が見たら
何と言うのだろう
…そして己は、何と応えるのだろう
黙々と歩みを進めるデュレンの
横顔を盗み見ながら
ルシアンは整理のつかぬ思いに
心を乱すのでありました
やがて霧都が近づいてまいります
モナルコ川の湿気が育む
豊かな緑の壁を抜け
心地よく濡れた空気の奥に
重水処理施設が眠っているのです
かつてルシアンは、怒りにたぎる情熱で
この川を渡りました
そして今は、得体の知れない感情に
心臓を鷲掴みにされ、捉え所のない
不安に足をすくわれながら
水面を眺めるのでありました
それは果たして
予感であったのやも知れませぬ
翻弄されるままに太刀打ちも叶わぬ
巨大な運命それ自体であるかの様な
重水プラント
運命に叛逆する彼らを出迎えたのは
予期し得ぬ邂逅と
別離であったのです……
デュレン
さあ、いよいよだ。
ルシアン
ここは、前に一度通ったが……
たぶん、あそこから進入できる
はずだ。
よし、いくぞ!
Battle 21 地下水道2(霧都)
霧都 重水処理施設「入口」
ルシアン
ここが重水処理施設か……
ザッパ
重水処理施設?
デュレン
そうだ。
ヴラドの目的はこの施設を起動させ、
ヘビィ・Dで採掘された
レアメタルを使って
古代文明と共に失われた
エネルギーを復活させる事に
あるんだ。
しかし、
この重水処理施設を動かす時には
膨大な有害物質が排出される。
そもそも施設の構造自体が
現在の技術では十分に解明されて
いないために、
施設自体が安定に動作する
保証自体がないのだ。
ザッパ
つまり何がどうなるか
わからねえって事かい!
オレンジ
もし施設が正常に稼働しなかった
場合にはどうなるんですか?
デュレン
君の想像どおりだよ。
オレンジ
霧都の構造上、
施設が暴走したら、霧都どころか
島全体が水没する。
デュレン
隣接する双子島が
突然水没した事があっただろう。
オレンジ
まさか、それが!
デュレン
そのとおりだ。エドゥアルド島を
双子島の二の舞にしてはいかん。
それでは、行くぞ。
霧都 重水処理施設「中央制御室」
デュレン
ヘルダー! 何をするんだ。
重水処理施設を動かしては
いかん!
ヘルダー
デュレンか。
お前が動かせずにいたものを、
動かしてやっているのだ。
感謝されこそすれ、
責められる筋合いはない。
デュレン
また島を沈める気か!
双子島のように。
ヘルダー
何を言っている? 双子島は
地殻変動によって水没したのだ。
もっと早くこのエネルギーを
手に入れていれば、地殻変動を
容易に制御できたのだ。
デュレン
何をたわけた事を言っておるのだ!
その地殻変動の原因こそ、
エネルギー抽出プラントの暴走
ではないか。
ヘルダー
なんだと?
いいかげんな戯言をぬかすな!
デュレン
貴様はそんな事も知らずに施設を
動かそうとしているのか!
オレンジ
この施設を止めるのは
俺じゃなきゃ無理だ!
ルシアン
どうやって?
入り口への橋がないぜ。
オレンジ
上のスイッチを入れれば、
橋がかかるはずだ。
そのあと俺が内部に入って
施設の機能を停止させる!
ルシアン
わかった。
スイッチは俺たちに任せろ!
煙都 レオーメ宮「制御室」
ルシアン
橋がかかったはずだ。
オレンジ、後は頼む!
オレンジ
よし、
この施設はもう終わりだ。
ルシアン
やったな!
ヘルダー
我々の負けのようだな。
しかし、もう手後れだ。施設は
起動し始めている。ヴラド様の
計画どおりに事は進むのだ。
デュレン
やめろ!
双子島での過ちを繰り返すな!
ヘルダー
まだ、その様な世迷い事を!
デュレン
調べればわかる事だ!
ヘルダー
信じると思うか!
オレンジ
だめだ!
システムが起動している。
デュレン
……まずい。
一度起動状態になったら
動作が完了するまでは
中止できない。
もはや、施設を破壊する以外に
道はないが、へたなことをすれば
大惨事を招きかねない。
オレンジ
ちょっと待って。何とか中の
構造が分かりそうだよ。
ザッパ
本当か?
オレンジ
ここを壊せば何とか施設の中枢
だけを破壊できそうだ。
だけど……
ザッパ
だけど、何だ?
オレンジ
中枢部分とこの制御室は一つに
繋がってるんだ。
中枢部分を破壊したとしても
誘爆によってこの制御室も一緒に
破壊されてしまう。
……人がいたんじゃ、
巻き込まれちまう!
ザッパ
……よっしゃ!
その役目は俺に任せろ。
要はこのパイプを
ぶち壊せばいいんだろう?
オレンジ
親方! だめだ。
爆発に巻き込まれちまう。
ザッパ
いいから俺に任せろ。
いずれにしろ誰かがここを
破壊しなきゃ、みんなおだぶつに
なっちまうんだろうが!
俺に考えがある。
いいから任せろ!
みなさん、オレンジが中枢部分だけ
を破壊するポイントを
見つけたみたいなんでさ!
ちょっとばかり暴れるんで
危ねえからみんな外に
出といてくれ。
(皆が制御室を出ていく。残るオレンジ)
ザッパ
おめえもだ、オレンジ。
オレンジ
親方!
ザッパ
心配すんな。きれいに吹き飛ばして
やらあ。
島を守り、俺達の家族を守るのは、
キカイの仕事じゃねって事さ。
スモール
重水処理施設が爆発してる?
お、親方は!?
親方が……いやだ、
絶対そんなことない!!!
やい、オレンジ!
親方はいつになったら
戻って来るんだよ!
オレンジ
スモール……
スモール
だって、お前は
親方と最後までいたんだろ!
親方は何処なんだよ!
教えておくれよ……
あたいに……
何処なんだよ……
親方は……
オレンジ
だまれ! スモール!
俺のほうが聞きてえよ!
なあ、親方……
ちょっと暴れるだけじゃ
なかったのかよ?
冗談はよそうぜ……
……ホントによ……
格好つけやがって……
何がキカイの仕事じゃねえだ!
わかってるよ! そんなこと!
機械は万能じゃねえよ……
機械を扱うのは
結局は人なんだ。
楽するために機械が
あるんじゃない。
そりゃあ、親方は
最近のスレッジは小難しくて、
めんどくせーだの、
いろいろ不満は
あっただろうけど、
親方にも喜んで使ってもらえる
モノを俺がたくさん創ってやる
つもりだったのに。
親方がいなくなっちゃ
何にもならないだろ!
くっそー!!!
(地面に拳をたたきつけるオレンジ。
やがて、力なく頭を垂れる。
その背中をルシアンは知っていた。
そんなオレンジの背中にルシアンは、
静かに歩みより語りかける……)
ルシアン
オレンジ……
元気をだせ……
そんな姿じゃ
ザッパが悲しむ……
スモールだって……。
レオノーラ
そうよ、ザッパは本当に
勇敢な男だったわ。
私たち、そして島の人達を
救ってくれたんだわ。
彼のことは一生忘れないわ。
オレンジ
……ありがとう。
親方、みんなが礼を
いってくれてるぜ。
俺達の親方が
島を救ったんだぜ……
すごいことだよな……
なあ、スモール。
スモール
あ、あったり前じゃんか!
あたいたちの親方だよ。
いっちばん強くて、
優しくて、頼りになって……
……でも、もう
あのガッツンはないんだね……。
オレンジ
心配すんな。
これからは俺がその役だぜ。
覚悟しときな。
スモール
……うん。
デュレン
また、犠牲者を出してしまった。
本当に済まない……
私についてきたばかりに
こんなことになってしまって……
私にもっと知識があれば……
力があれば……
彼の死を無駄にしない!
わたしもかつて
剣帝と呼ばれた男だ……
私の命に替えても
ヴラドの野望は阻止する!
我々は国王に御報告申し上げる
ために暴都へ向かうことにする。
レオノーラは自分の都市に戻り、
守りを固めた方がいいだろう。
これ以上、留守にしておくのは
危険だ。
レオノーラ
わかったわ、デュレン、
無理しないでください。
時として真実は、残忍な凶器となり
人々を傷つけるものなのかも
知れません
今まで信じてきた常識が
ある日突然、裏返しになる
白は黒に
黒は、白に
そしてその時
今までに見えなかった新たなる現実が
真実という衣を纏って
眼前に現れるのです
ヘルダーが果たして
どのような心持ちで皇都へ戻ったのか
今となって
それを知る術はありません
しかしその時の彼を見た人々は
今なお、この様に語るのです
青き炎に爛々と瞳をたぎらせ…
蒼白な面に
それはこのうえなく恐ろしく…
さながら、獲物を見失った
飢えた猟犬を思わせる様な…
彼を待ち受ける真実を
ヘルダーは畏れていたのかもしれません
自分の信じてきた過去の
そのあまりに亡弱な存在に
彼は絶望さえ感じていたのでしょうか
皇都 キングクリムゾン
ガーディアン1
ヘルダー剣帝補佐官が
王宮入りされます。
ガーディアン2
お連れの方もなく、お一人の
王宮入りとは珍しいな。
ガーディアン3
異常な地殻変動を確認!
許容範囲から大きく外れます!
距離三〇〇〇、三五〇〇…
これは…霧都ですっ!
ガーディアン2
何っ!
霧都に何かあったのか?
ヴラド様に報告!
早急にだっ!
ヘルダー補佐官は
どちらにおられる?
ガーディアン1
先ほど、科学技術研究院の
資料室へ向かわれました。
ガーディアン2
資料室だと……?
皇都 キングクリムゾン「資料室」
ヘルダー
こんなことがある筈はない……
考えられぬ。
あの様なおいぼれの戯言、
信じはせぬ……信じはせぬ!
ヴラド
急な帰還だな、ヘルダー。
霧都の付近で大規模な地殻変動が
観測された。何があったのだ?
ヘルダー
ヴラド、
あなたに聞きたい事がある……。
俺は双子島の貧しい家庭に生まれた。
俺の父は、俺が生まれる前に
この世を去り、残された母が
女手一つで俺を育ててくれた。
しかし、双子島の水没によって
母は亡くなった。
水没は地殻変動によるものだと
今まで信じてきた。
ヴラドの研究が完成さえすれば、
もう二度とあのような悲劇が起こらない。
そう信じてきたが……。
ヘルダー
島を沈めたのは
ヴラド、あなたなのか?
ヴラド
その通りだ。
ヘルダー
なぜ、黙っていた。
ヴラド
お前が知る必要はないからだ。
ヘルダー
貴様が母を殺したのか?
ヴラド
あれは事故だ。
技術が未完成だったのだ。
すべての条件がうまく作用すれば
あの様な事態にはならなかった。
ヘルダー
それだけわかれば十分だ。
ヴラド
どこへ行く?
貴様には剣帝を捕らえ、
処刑する仕事があるはずだ。
国王や邪魔者も消せ。新たな
世界がまもなく築かれるのだ。
自分のすべき事を思い出せ。
ヘルダー
自分のやるべき事は
わかっている。
ヴラド
それならばいい。
デュレン
国王陛下、ヘルダーは
取り逃がしましたが、
重水処理施設は閉鎖する事が
できました。
ウィーザー王
そうか、
それはよかった。
しかし、今後はヴラドや
ヘルダーがどのような
反撃に出てくるかはわからぬ。
早急に反撃の芽を絶った方がよい。
デュレン
はい、心得ました。
国王陛下。
ウィーザー王
今後はどうするつもりだ。
デュレン
はい、追いつめられたヘルダーの
事を考えると、
ヘビィ・Dの管理をしている
レオーメの事が心配なので、
彼女のいる煙都に向かいます。
キャロル
私も一緒に行くわ。
ウィーザー王
キャロル、何を言う。そんな危険な
真似をさせる訳にはいかん。
キャロル
大丈夫。
だって今度は戦いではなく、
レオーメの様子を見にいくだけ
なんでしょ。大丈夫よ。
ルシアン
キャロル、無茶いうなよ。
キャロル
いーえ、行くといったら行かせて
いただきます。
今度は譲らないわ。
[
オープニング |
鳥 |
面影 |
盗賊 |
逃走 |
故郷 |
邂逅 |
ヘビィ・D |
記憶 |
虚塔 |
狂貴 |
散華 |
残光 |
エンディング ]