面影
それから四度目の冬
皇都キングクリムゾンに近接する
暴力と貧困の都に彼は居りました
アート・オブ・ノイズ…
垂れ流された排水に街は淀み
空にはいつも
灰色の粉が舞っている街
それはほんの他愛もない
この街では珍しくもない
ごく普通の喧嘩騒ぎから
始まったのです
暴都 城下町裏通り
キャロル
何するのよ。あなた達!
キカザル
キヒヒ、気の毒だが、
お前には死んでもらう。
侍女
キャロル様! ここは私に任せて
お逃げください。
キカザル
女だとて容赦はせぬぞ!
どけっ!
侍女
きゃああ!
酔漢1
お前、見かけない顔だな。
どこからきたんだ。
ルシアン
さあな。
あんたには関係ない。
酔漢2
ふん、いきがってやがるじゃ
ねぇか。ここで何をしている?
ルシアン
見て判らないのか?
酒を呑んでるんだ。
酔漢1
こんな時に飲んだくれているとは。
結構な身分だな、小僧。
ルシアン
何をしようとお前にとやかく
言われる筋合いはない。
酔漢2
なにい。
おもしろい、外に出やがれ。
(外に出るルシアンと酔漢二人)
女将
なにさ、一体どうしたのよ。
看板娘
馬鹿が、あのよそ者に
喧嘩ふっかけたのよ。
国王陛下が御病床に
伏せっておられる時に
酒に酔うとはけしからんって。
女将
けしからんって、あんた、
ここは酒場だよ!
(キカザルの部下に囲まれたキャロル)
(酔漢二人が酒場から出てくる)
酔漢1
……んーん、なんだお前ら?
酔漢2
っひっく、
こんな所に突っ立っていたら、
……っひっく、
邪魔だろうが!!!
それとも、やろうってのか?
上等だ!
キカザル
うるさい奴らだ。
…殺れっ!
(暗殺部隊に殺される酔漢達)
暗殺部隊
…………
キャロル
こんな事をしてあなた達、
どうなるかわかっているの!
(遅れてルシアンが現れる)
キカザル
そこの若いの。
知らぬ顔をして家に帰れ。
お前も命は惜しかろう?
キャロル
こいつらは皇都の暗殺部隊よ!
それも王室直属の精鋭騎士。
かなう訳ないわ、逃げて。
ルシアン
!?
皇都の騎士か?
ルシアン
……なんで妹……ここに……
(妹とキャロルがだぶって見える)
キャロル
妹?
あなた酔っているの?
ルシアン
うがああっ!
(暗殺部隊に斬りかかるルシアン)
今度は、今度は守ってみせる!
(酒場の屋根にいるスモール)
スモール
あ! もめごとだ。
しめしめ、一儲けできそう。
あの兄さん強そうだしい〜。
〜って、ええ!
なにあれ、王直騎士じゃない!
兄さん死なない程度に
がんばってよお。
まあ死んじゃっても
みぐるみはいじゃえばいいしい。
あの子も売り飛ばしちゃえば
結構いい値がつきそうだし。
がんばれ、がんばれ!
Battle 1 小道(アート・オブ・ノイズ)
スモール
勝っちゃった。
やるじゃない。
さあ、お仕事、お仕事。
キカザル
ちっ!
ここはひとまず退却だ。
ルシアン
逃げるな! 戦え!
騎士なんだろう?
キャロル
私達も今のうちに逃げましょ!
早くっ!
(分かれ道で決めかねているキャロル)
スモール
おおっと!
そっちは危ないよ。
金と女と血に飢えた
野獣の巣だよ。
キャロル
だれっ!
スモール
逃げたいんだろ? やめときな。
そっち側は、ガーディアンで
いっぱいさ。
キャロル
あなた…だれ?
スモール
あたいの名はスモール。
もし逃げたいんなら、
ついといで。
キャロル
(一瞬ためらってから、スモールを追う)
スモール
ここは、あたい達が
よく使う隠れ部屋なんだ。
めったな事じゃ
見つからないからね。
安心して休めるよ。
キャロル
ありがとう、感謝するわ。
スモール
感謝なんか
してもらわなくてもいいよ。
そのかわり……
お礼にその首飾りと
イヤリングをちょうだい。
キャロル
いいわ。
……はい。
スモール
毎度っ。
こまった事があったら
また呼んでね……じゃ!!
キャロル
あなたにも、助けてもらった
お礼がまだだったわね。
名前……なんていうの?
ルシアン
………………
キャロル
……あら、もうお休み?
しょうがないわね。それじゃ
また明日にしましょう。
…そしてスラム街の一夜は明ける。
キャロル
やっとお目覚め?
ルシアン
お前……誰だ?
いや、それよりここはどこだ。
確か、俺は酒場で……
キャロル
いやだ。覚えてないの?
昨日、あなた暗殺部隊と
喧嘩して、みんな血祭りに
上げたのよ。
ルシアン
俺が?
キャロル
ええ、あなた一人で。
それから私とこの宿に入って
夜を過ごしたの。
本当に、何も覚えてないの?
ルシアン
……
キャロル
ひどい。
ルシアン
待ってくれ、
本当に記憶にないんだ。
キャロル
喧嘩した事も?
ルシアン
ああ。
キャロル
……部屋に入った事も?
ルシアン
ああ。
キャロル
……その……後の事も?
キャロルの肩を掴んで
いきなり押し倒すルシアン。
そして、ニッと笑った顔を
鼻先がくっつきそうなほど
キャロルの顔に近づける。
ルシアン
……その後、ってのは、
なんの事だい?
キャロル
し、失礼ね!
レディーに言わせる気?
ルシアン
クックック……そりゃ失礼。
キャロル
ニヤニヤ笑ってないで、
責任とりなさいよ!
ルシアン
ハイハイ、責任ね。
……しかしまあ、
夕べそんな事があったってなら、
今さら遠慮する事もないやな。
キャロル
!!!!!
ルシアン
冗談さ。
オーケー、茶番は終わりだ。
なんで俺をはめようとした!
キャロル
…ひどーい。
最初から疑ってたのね。
乙女の一世一代の
大芝居だったのに。
ルシアン
知るか。
金持ちの匂いがする人間は
信用できないんだよ。
あんたには、
この街の水の匂いがしないのさ。
キャロル
…………
ルシアン
ここは、街中に降った煤煙
混じりの煤けた雨が流れ込んでくる。
風呂の水まで煤けてんだぜ。
俺があんたに触れたか
どうかなんて、ちょっと顔を
近づけりゃわかる。
キャロル
ホント? 信じられない。
シャワー使わなくてよかったー。
ルシアン
で、最初の質問に戻るとだな……
責任とって、俺に
何をさせようとした?
キャロル
……私と一緒に、来て欲しいの。
ルシアン
まともな護衛なら、
いくらでも金で雇えるだろ。
キャロル
悪いけど、私が欲しいのは、
まともじゃない護衛なの。
例えば、ガーディアンに
たてつくような、ね。
ルシアン
ガーディアン?
王室直属の騎士団にたてつく
阿呆がどこに……
キャロル
やっと思い出した?
私としては、ほとぼりが冷めるまで、
街の外に身を隠すのが得策だと
思うんだけど……どう?
ルシアン
くそ、いいように巻き込んで
くれやがって。
……行くあてはあるのかよ?
キャロル
霧都(ミスト)。デュレンシティよ、
まあ、島の反対側だから、
ちょっと遠いんだけど……
ルシアン
霧都……て言やあ、
大規模重水処理施設のある
デュレンシティか?
キャロル
あら、詳しいのね。
行ったことあるの?
ルシアン
……いや。だが、
いずれ行こうとは思っていた。
キャロル
なら、ちょうどいいじゃない。
ルシアン
そうだな……
分かった、その話のってやるよ。
キャロル
じゃあ、改めて自己紹介からね!
私はキャロル。
ルシアン
……ルシアンだ。
ルシアン・ティラー。
キャロル
いい名前ね。
よろしく、ルシアン!
旅支度を始めるルシアンとキャロル。
その時、部屋の扉が開き、
見た事のない男が入ってくる。
ルシアン
何だ、お前ら。
ザッパ
後ろのねえちゃんに話が
あるんだ。どいてくれ。
スモール
キャロル、あたいだよ!
キャロル
あなたは!
ザッパ
お嬢さん、
俺はこの辺りの自警団
ブロウモンキーズを仕切っている
ザッパって野郎です。
こいつぁ俺の手下で
スモールってケチな小娘でさぁ。
夕べは、こいつが宿を紹介した
だけで、こんな高価な宝石を頂戴
しまして、大変失礼しやした。
キャロル
いいんです。そんな……
他にお礼もできなかったし。
ザッパ
とんでもねぇ。
世の中にゃあ相場ってもんが
ありまさぁ。
これだけ頂いて宿代だけじゃあ
釣り合いが取れねぇ。
お嬢さん方、これから街を
出なさるんでしょう。
まだ明るいとはいえ、
ここいらぁ物騒だ。
頂戴した分だけは、俺らが
責任もって案内しまっさ。
キャロル
いいんですか?
ザッパ
当然でさぁ。
それがこの街のビジネスってもんだ。
オレンジ
なーんか来たよぉ!
スモール
あの金具の音……
ガーティアンだ!
ルシアン
くそっ!
オレンジ
兄ちゃん、これを!
ルシアン
なんだ?
オレンジ
俺が作ったスレッジだ。
軽いけど威力はある。
大丈夫、信用しな!
聞ぃ〜こぉ〜えぇ〜るぅ〜?
そこ!
そこのスイッチを入れるのぉ〜
すると橋がかかるからぁ〜
渡ってこっちへ来てねぇ〜。
わかるぅ〜?
スイッチの方向を向いてからぁ
入れるのよぉ〜。
もたもたしてるとぉ〜
敵がおっかけてくるよぉ〜。
親方たちは、キャロルたちの
逃走用の道を確保しにぃ〜
行ってるからぁ、
手助けがぁ、
できないってぇ〜。
自力で脱出口まできてねぇ〜。
あたいは見てるだけだからね。
じゃ、がんばってね、チュッ!
Battle 2 裏路地(アート・オブ・ノイズ)
スモール
キャ〜ロルゥ〜、
昨日の騎士がぁ〜、
鬼みたいな顔でぇ〜、
追っかけてきたよぉ〜。
キカザル
……(鬼のような顔)……
スモール
あいつら今度はぁ〜、
しっかり武装してきたからぁ〜
逃げたほうがいいよぉ〜。
スモール
キャ〜ロォ〜ルゥ〜
聞ぃ〜こぉ〜えぇ〜る〜。
通れないとこもスイッチを押すと
通れるようになるからねぇ〜。
スイッチはぁ…
あぁ〜んなとこやぁ……
こぉ〜んなとこにもあるからぁ
がんばってねぇ〜。
スモール
キャロル〜。
また敵が出てきたよぉ〜。
脱出口にたどり着けば
後は親方たちが
何とかしてくれるから
早くしてね〜。
スモール
はい、とぉちゃ〜く。
結構やるじゃない。
ちょっと見直しね。
ザッパ
ここから抜ければ裏街道を通って
森へ抜けまさ。
あとはモナルコ川を下れば、
霧都にたどり着くはずだ。
キャロル
本当にありがとう。
ザッパ
これでやっと取り引き成立だ。
縁があったら
また会いましょうぜ。
ルシアン
このスレッジは
たいしたものだ。
まだ、名前を聞いてなかったな。
オレンジ
へへっ。俺の名はオレンジ。
オレンジ・デラックス。
気に入ったんなら、そのスレッジ、
兄ちゃんにやるよ。
ルシアン
いいのか。
オレンジ
ああ。
上等な腕に使ってもらった方が
そいつも喜ぶってもんだぜ。
ルシアン
貰っておこう。
借りはいつか返す。
オレンジ
気にすんな。
スモール
じゃあね、キャロル!
キャロル
ええ! ありがとう。
[
オープニング |
鳥 |
面影 |
盗賊 |
逃走 |
故郷 |
邂逅 |
ヘビィ・D |
記憶 |
虚塔 |
狂貴 |
散華 |
残光 |
エンディング ]